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熱狂的なファンがつけばつくほど、私の自由はなくなっていった。
ライブ会場には出待ちのファンが溢れ、すぐに帰れなくなった。
ファンレターもただのファンレターではなく、過激な文面だったり、訳の分からないものが多く送られてくるようになった。
最初は気にしてなかったし、色々な人が居るのね。と気丈に笑っていた未菜も、圧倒的な偏りに不安になってきたのだろう。
二人との溝はどんどん深くなる。
私個人の仕事が増えていく事もそうだが、二人はレッスンをたまにサボるようになった。
それどころではなく、休日が欲しいという。
私はもっともっと高みを目指したかったのに。
外に出れない事を幸いにと狂ったようにレッスンを続ける私と、二人の温度差は激しくなっていくばかりだった。
他の事務所からも個人で活動した方がいいんじゃないかと言われるようになった。
私は二人の事を大事に思っているから蹴ったが、その事を聞いた二人は私に嫉妬したのだろう。
嫌味ったらしく気にしなくていいのに。とか言うようになった。
それでも仕事の依頼は増え続ける。
私の神経は徐々に擦り減っていった。
そして決定的な事が起こった。
「きゃーーーー!!」
突然の叫び声に部屋でくつろいでいた私は、外に飛び出た。
そこには暴れる男を取り押さえている警備員と、震える後輩達。
慰めるように茜や先輩達が取り囲んでいる。
「あー、居た!本当にルナがいた!」
男は私と目が合うと嬉しそうに言いながら暴れ始めた。
「離せよ、俺とルナは運命の赤い糸で結ばれているんだ。邪魔をするな」
顔も見た事のないような男が私へと近づこうとしてくる。
狂っている。
始めに浮かんだのは恐怖だった。
思わず後ずさってしまっていた。
SNSで書き込まれていたのが本当だったのだとジワジワと理解した。
震えている私を見た茜が大声で叫ぶ。
「あんたのせいよ。あんたのせいで全部メチャクチャになったわ。そんなに人気が欲しいなら一人でやればいいじゃない!」
「茜っ」
「未菜だって本当はそう思っているくせに、はっきり言いなさいよ」
私はそんなにも二人に憎まれていたの?
今はすれ違っているけど、落ち着けば元に戻ると思っていたのに。
「ほら、みんな部屋に戻りなさい」
慌ててやってきた寮の管理をしているおじさんが私達を部屋へと追いやる。
私は一人戻った部屋で泣いた。
こんな筈じゃなかった。
次の日、プロデューサーに呼び出された。
仕事は警察への事情聴取もあってキャンセルになった。
捕まえた男を事情聴取した所、私の熱狂的なファンで宅配便の業者を装って寮の中に侵入してきたらしい。
その話を聞いても「そうなんですか」としか言えなかった。
「すまなかった」
「え?」
「茜はしっかりしているから君の事を任せられると思った。君はスターになるべく星を持っていた。しかしまだ子供だ。だから君が傷つかないように面倒を見るように頼んでいたのだが、あんな暴言を吐く程追い詰められているとは思っていなかった」
「プロデューサー、私どうしたらいいんでしょう?」
「君はフィンカを抜けた方がいい。このまま三人で活動していても傷つけあうだけだろう」
「……はい」
「私の読みが甘かった。確かに君は世界を変える程の力を持っていた。それと同時に他人の世界を変える程の力も持っていた。君を手に入れる為に狂う人間が多く出るだろう。君は芸能活動を止めた方が幸せに暮らせるだろう」
はっきりと言われて諦めがついた。
何よりも、人と比べられ批判される事に私は疲れ果てていた。
表現をする事は好きだったが、何もかもを犠牲にする程ではない。
このキラキラした世界に私の欲しいものはなかった。
「しばらく活動を休止していなさい。事件の事があって心情的に活動できないとする。段取りが出来たら追って卒業の日程を決めよう」
労るようにプロデューサーは言ってくれた。
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