ヒロインの話

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 早く神志名君に会いに行ってアタックしないと。  今は彼女が居なくてもいつ出来るか分からない。  あんなカッコいいんだもん。 「香澄、昨日の遼介君とのデートはどうだった?ご機嫌な所を見るとなんか進展あったでしょ?」  昼休み、いつも一緒に居る理恵に話しかけられる。  可愛い女の子は友達の付き合いだっておろそかにしない。  ちょっと寄生されてるのかも。って疑う事もあるけど、引き立て役としては丁度いいものね。  そんな酷い事考えちゃ駄目よ。  私は誰にだって公平で優しい女の子。  アーシエル様だって、その方が魅力的だって言ってくれてたし。 「遼介君とは別れちゃった」 「え?」    理恵が間抜けな顔をしている間にお弁当を食べる。  今日も可愛く出来た。  こう見えて私は料理だって得意。  神志名君は何が好きかな?  お菓子ぐらいだったら差し入れしても大丈夫かな? 「え、だってやっと付き合えるようになったって喜んでいたじゃん」  まあ、確かに。  神志名君と出会う前は遼介君の事カッコいいと思ってたわよ。  だからアタックしてたけど、もう違うの。  いつまで情報が古いのよ。  だからモテないのよ。  私は心の内を抑えて曖昧に微笑んだ。 「本当に別れちゃったのね」 「色々協力してもらったのに、ごめんね」 「別にいいわよ。それより何で別れたの?」  好奇心を隠そうともせずに聞かれる。  ガツガツしてるけど教えてなんかあげない。 「私、運命の人に出会ったかもしれない」 「香澄、遼介君と会った時も同じような事言ってたわよね」 「酷い。遼介君の事は忘れて。勘違いだったのよ」  そう、酷い勘違い。  アーシエル様と話した後も凄い着信とか来てて怖かったもん。  あんな怖い人だとは思わなかったわ。  一時といえどあんな男に惹かれてたなんて、疲れてたのかな?  私としてはもう思い出したくないし。  すぐに別れたし、ノーカンでいいわよね。 「青葉高校だっけ?そんなレベル高い人居た?」  紹介してもらう気満々で理恵が見てくる。  そんな事する訳ないじゃない。  ただでさえ格好いいのに、ライバルが増えたら困る。  私の恋人になったら紹介してあげてもいいけど。 「えへへ。まだ秘密」 「ふうん。まあいいけど」  理恵が誤魔化すようにジュースにストローを指す。  その人差し指のネイルが剥げている。  駄目よ。  美は指先に現れるのに疎かにしちゃ。  こんな女に負ける訳ないか。  私は少し安堵した。  放課後が来るのが待ち遠しいわ。  昨日のように校門の前で神志名君の事を待つ。  みんな完璧な私に見惚れているわ。  当たり前よね。  こんな可愛い子が待っていたら気になるものね。  チラチラ見てくる男子達に、何か用があるんですか?というように首を傾げ微笑んでみると、盛り上がるが話しかけては来ない。  私はコンパクトでメイクがきちんと落ちていないか確認する。  すれ違ったらいけないと思って、昼休みの間に完璧にメイクは済ませておいたけど、落ちてないよね?  理恵はついてきたそうにしてたけど、無視してさっさと学校を出た。  今恋コスメと話題のベリーの香水だってしっかりつけてきた。  完璧よね。  浮かれている間にどんどん人が出ていくが神志名君は出てこない。  日がすっかり落ちてしまって夕方になっている。  もう先に帰っちゃったのかな?  それとも部活でもやってるのかな?  私は部活の帰り支度をしている人に勇気を出して話しかけてみた。 「神志名?もう帰ったんじゃないか?あいつ部活とかもやってないし、基本すぐ帰るしな」 「彼女でも居るんじゃないか?」  私はショックを受けながら帰った。  同じ高校じゃない事が悔しくてならない。  でも、しょうがない。  今の高校の制服が一番モテるって雑誌に書いてあったんだもん。  それにまだ一日目。  上手くいかなくてもしょうがない。  私は確実に神志名君に会う為に、今度は朝に待ってみる事にした。  完全に遅刻だ。  だけどいいの、一日ぐらい。  女子たちのざわめきに神志名君が来るのが分かった。  本当に彼はどこに居ても目立つ。  それだけカッコいいんだもの。  同じ制服を着ている他の男子生徒と全然違う。  これも恋の力なのかしら?  この前と同じように目付きの悪い男と一緒に歩いている。 「あの、神志名君」  呼びかけると、視線を向けてくれる。  それだけで用意していたセリフを忘れそうになる。 「この前いきなり話しかけてきた奴だよな?」 「うん、そうだね」  一瞬足を止めたが、すぐに二人はまた歩き出す。 「待って」  慌てて腕を掴もうとすると、軽く避けられる。  そのまま不思議そうな顔で見つめられる。  無様に宙に浮いた手を慌てて胸の前で組む。 「何?急いでるんだけど」 「あの……お友達になりたいんですけど。IDとか教えて貰えませんか?」  勇気を振り絞って言ってみる。  こんな美少女に言われたら自慢になるでしょ?  イエス以外に無いわよね。 「ごめんなさい。親しい人以外には教えてないんで」  神志名君はニッコリと笑った。   蕩けるような笑顔に見惚れている内に、神志名君は目つきの悪い人と何事もなかったかのように、校門の中に入っていってしまう。  嘘でしょ。  失敗じゃない。  この日は学校に行く気になれなくて一人SNSで話題のパフェを食べに行っていっぱい食べてしまった。  さすがに昼間だから人は全然居なかった。  運ばれてきたパフェは写真で見るより巨大だったけど、むしゃくしゃする気分をはらすには丁度良かった。  大丈夫よ、香澄。  まだ始まったばかりじゃない。  彼は親しくなったら教えてくれると言ったわ。  親しくなるように頑張らないと。  私は気合を入れるように巨大なパフェへとスプーンを入れた。  あーあ、明日からもっとダイエット頑張らないと。
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