第一章 爆発オチの密室

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次の日の朝遅く。酔いつぶれていた俺たちは、慌ただしい足音で目が覚めた。 「ん……? 何があったんだ……?」 職業柄朝が早いのか、新聞記者の市村が、廊下に出てあたりを覗き、それから扉を閉めた。 「うう、さぶっ」 説明しておいた方がいいかもしれない。この宿は山奥にあるスキー宿で、とても寒い。具体的に言えば、暖房が入っていない部屋は冷蔵庫なのである。 比喩ではなく、物理的に冷蔵庫なのだ。この宿の四方八方は雪の壁に囲まれている。屋根に積もった雪を下ろせば、宿の真脇に高い雪山が積みあがるし、そもそも外に出れば、常に二メートル近く雪が積もっている。 ひとたび新雪が積もってしまえば、そこにあったのは雪なのか、屋根から落屑した雪なのか、それとも除雪した雪なのかがわからないのだ。 故にこの宿は非常に寒い。暖房の入っていない廊下に顔を出した市村が、すぐに引っ込んだのも道理である。 「おや、ずいぶん長い描写説明がありましたねぇ」 廊下を歩いていく、呑気な声がする。 この声は……確か、あの古物商の男の声じゃないだろうか。名前は確か、■■■と言ったか……。 「こんなにも雪についての説明があるのなら、これがきっとトリックに一枚噛んでいるのでしょうね。今回の密室は、積雪と室温が肝。覚えておきましょう」 そう言うと、声は遠ざかって言った。 ……。なんなんだ? 俺が呆気に取られていると、牛島が目を擦りながらやってきた。 「おい、何かあったのか?」 「今そこで、妙な奴がいたんだよ。なんかブツブツ言ってたな……」 「んー……それにしては足音が多すぎるな」 それは本当のことだった。複数人のドタドタという足音が、古い宿を駆け巡っている。 これはおそらく……従業員の足音だろうか? 「た、大変です皆さん」 俺の予想は当たったようだった。部屋のドアを勢いよくあけて、冷たい風がぴゅうと吹いてきた。 開けたのは、青い顔をした宿の従業員だった。 「江藤さんの部屋から……返事がないんです!」
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