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「姉さんは僕が会社を辞めた理由を知ってるだろ?」 「もちろん知ってるわよ、律の気持は分かるけどあれは不幸な事故だったの。早く忘れなさい。せっかく引っ張り出してあげたのにまたあの狭い部屋に引きこもるつもり? 人間はね仕事をしてお金を稼がなきゃ生きていけないのよ」  言っていることは間違いではない。こうやって仕事ができるようにサポートしてくれたのも感謝している。 (僕だってあのことを忘れられるのなら忘れてしまいたい)  なのに、あの時の恐怖が律の心と体を苦しめる。 (あれを不幸な事故で片付けられてしまうのは――) 「――意地悪してるわけじゃないの。律にとってもリハビリになるんじゃないかって思ったのよ」  やり場のない怒りに震える律を慰めるように言葉を重ねる。 「どうして心の傷は見えないんだろうね」  ため息をつくような声に怒りの熱が一瞬で冷めた。 「可愛いお姫様も大人の事情でママと引き離されて傷ついてると思うの。律なら同じ心の痛みを分かってあげられるんじゃないかって思ったんだけど……ギブアップする?」 「――二週間」  上目遣いの姉に小さくつぶやいた。それ以上何も言わずに返事の代わりに飛び切りの笑顔を向けた。 (……やっぱり姉ちゃんには敵わない)
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