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 最初は人と話すのも怖かった。事務所の掃除と書類整理が主な仕事。  ところが急遽欠員の穴埋めを頼まれて家政夫(ハウスキーパー)として現場に出たのが運の尽き。  丁寧な仕事に顧客からの評判も良く、その後も現場に引っ張り出された。    そうやって働き始めて半年。少しずつだが心の傷も癒えてきたと思う。  依頼者や同僚は圧倒的に女性ばかりなのもよかったのかもしれない。  立場も年齢も低い律は可愛いマスコット。職場で異性として扱われることはほとんど無い。 (というかいつまで経っても身分は雑用係)  律の最大の敵は――姉だ。 「若いんだからしっかり働いて稼ぐ!」律が失敗をうじうじ悩む時間を与えることなく次々と仕事を振ってくる。 (姉ちゃんは鬼だ。身内だと思って遠慮しないし)  おかげで家族や恋人たちが盛り上がるクリスマスも関係なし。 (休みをもらってもデートに出かけるような相手もいないんだけどさ)  心の中で文句を垂れて引っ張り出したしたスマホの画面確認する。 (えっと、依頼者は小柳英恵(こやなぎはなえ)さん。派遣先は子供の千秋(ちあき)さん宅――娘さんを心配してるのかな? 子供は五歳の女の子が一人か)  詳しいことは派遣先の指示に従ってくれと赤文字の指示書きがある。  駅から吐き出される人に流されてたどり着いた目的地。 「いいなぁ」  建物を見上げて思わず感嘆の声が漏れた。
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