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呼び出し
俺は誰よりも人生を無駄にした。
人を殺した。
例えそれが事故だとしても。
若くて調子に乗り過ぎた。
親の忠告を無視した。
当時の俺は学校でもハミ出し者だった。
ハミ出し者の集まる場所に群れて、毎日毎日しょうも無いことをした。
最初は通りでオロオロしてる奴を見ると、優しく声を掛けた。
安全に道を渡れる方法を丁寧に教えてやった。
俺の掌にコインを置くと言う方法を。
俺と同じように道で貧弱そうな奴をみると、他の奴も通行料を取った。
同じ通りで被るムカつく奴と喧嘩した。
俺は意外にも腕っ節が有ったらしく、いつしか少数グループへと膨らんで行った。
夏になると、海を見に行きたくなった。それで連中とそこらの駐輪場に放置されている可哀想なバイクを無断で拝借した。
俺達はバイクで海を目指した。俺はただただ波が見たかった。でも他の連中は女の水着が見たかった。
調子に乗ってナンパした。水着じゃ何歳か分からねえが、ツッパってるのが好きな女共は俺達の後ろに乗った。
調子に乗ってスピードを出した。
そして俺は人を轢き殺した。
俺はいつも同じ壁を眺める。
同じ廊下を歩き、同じ作業着を着て、
施設の中の特別な工場で働く。
毎日毎日毎日
同じことの繰り返し。
俺はロボットになった。
鋭く長い鉄の棒を持つ連中には逆らえねえ。
真面目にその世界で何年も何年も働いた。
ある日そこから出ろと言われた。
俺は何年かぶりに外の空気を吸った。
普通の人間が暮らして吸う空気を・・・・・・
外では親戚の叔父さんが迎えに来ていた。
俺は何で親父もお袋も来ねーー
俺は捨てられた。
そう思った・・・・・・
違った。
聞いたら両親は交通事故で亡くなった。
轢き逃げらしい・・・・・・
息子の俺が轢き逃げをしたのに、俺じゃなくて代わりに親父とお袋が生命を奪われた。
言葉を失った。
俺は暫く両親が残した家でぼーっと毎日を過ごした。これから親孝行しようとシャバに出ればもう居ない。
電話が鳴った。
何処かで聴いた声だ。
名前を聴いて思い出した。
俺の中学の担任だった。
学校の体育館へ来い。
何だ今更って思ったが、もう俺はあの当時の様にツッパる気何てさらさら無かった。
俺は素直に日曜の学校の門を潜り、体育館へ向かった。
ガラガラガラガラ
重い扉を開ける。
電気も何も点いて居ない部屋に、担任は座していた。光が入り、俺が来たことに気付くと眼を開いてこちらを見た。
最初俺は彼を別人と思った。
そして彼も俺を別人と思った。
もうあの時から十年も経過している。
お互い老けていた。
筋骨隆々の男の姿はもう腹の出たオヤジに変わっていた。瞳がギラギラして三白眼の俺は、目の死んだただのオッサンに成り代わっていた。
名前を確かめ俺だと分かると、黄色く色が変色した紙を渡してきた。
「卒業おめでとう、お前の忘れ物だ」
俺はそれを握りしめた。
変色した紙は、俺の嗚咽とともに他の色が混ざって行った・・・・・・
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