第一話 船岡山の霊狐

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 ところが――。恭が修士論文と格闘していた昨年末、状況が一変した。なんと、父がいきなり失業してしまったのである。  言うまでもなく、博士課程に進学すれば、それだけで学費が何年も余分にかかる。学振――すなわち、日本学術振興会の特別研究員に採用されれば、国から生活費の支援を受けながら研究を続けられたのだが、こちらは審査が厳しく、恭は落ちてしまった。  もっとも、もし学振に受かっていたとしても、採用期間は博士三年まで。だが、恭がいた研究室では、「博士三年で卒業できれば伝説になれる」と言われていたので、博士四年以上の延長戦は覚悟しなければならなかっただろう。博士課程は研究成果が認められるまで、永遠に卒業することができないからだ。  となると、少なからず親からの資金援助に頼ることになってしまう。アルバイトで稼ぐといっても限度があるし、さもなくば、奨学金を借りるほかない。  挙句、卒業後は任期付きの職を転々とし、安定したポストに就けるまで貧乏暮らしが待っているというのだから、お先は真っ暗だ。実用性が低い基礎研究は需要が少ないため、研究職をあきらめて一般企業に就職しようとしても、年齢で敬遠されて苦戦を強いられるらしい。
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