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第一話 船岡山の霊狐
二十四歳、無職……か。はあ……。まったく。こんなことになってしまうとは、一年前には想像もしていなかったな……。
先週まで鯉のぼりが泳いでいた雨後の空の下。狐坂恭は目にかかった黒髪をかきあげもせずに、うつむいたままトボトボと歩いていた。
場所は京都市北区を東西に貫く北大路通。紫野で西陣織の和雑貨屋を営む祖父母の家をあとにし、北白川のマンションの自室へ帰るべく、バス停に向かう道中だった。
この週末は久しぶりに両親が京都府北部の田舎町からこちらに帰省していたので、それに合わせて恭も顔を出してきたのである。
それにしても、お父さん、一気に老け込んで見えたな……。
「本当にすまない。こんな形で恭の夢を潰してしまって……」と、別れる間際まで幾度となく謝っていた父の申し訳なさそうな顔が脳裏によみがえり、恭はやるせない気持ちになった。
恭は今年の三月まで大学院の修士課程に在籍していた。専門は動物行動学。文字通り、動物の行動を研究する分野だ。幼少期から動物好きだった恭にとって、そこはずっと憧れの場所だった。だからこそ、恭はたった二年間の修士課程では満足することができず、修士の卒業後は、迷わず博士課程に進学して研究を続けるつもりだったのだ。
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