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四、 詩織の繋がりの糸
詩織は、自分の体を見た。銀色の糸が胸のあたりから出ている。その先を目で追った。一本の糸が二股に分かれて一方は、一郎の胸と繋がり、もう一方は、河原に放置されている詩織の体に繋がっていた。
「一郎! 繋がりの糸が出ているよ。一郎と繋がってる! 私も繋がってるんだよね。切れてなんてないよ」
「あれ、本当だ。もう断たれてると思ったけど、何となく繋がってるって感じだね。あ、でもその繋がりの糸をよく見てごらん」
そう言われて、詩織は、胸から伸びている糸を触ってさらによく見た。明らかに一郎の胸から出ている糸に比べると細く、今にも消えそうなほど透き通っている。
「これって……。どういうことなの」
「さっきいったように、繋がりはその糸がプツンと切れるんじゃなくて、糸が消えていくような感じで全てと離れてしまうんだよ」
「え! じゃあ今、この繋がりの糸は、消えかかっているの」
「ああ、もうすぐ消えてしまうね。残念ながら、その時がサヨナラの時だよ」
「あっさり言ってくれるよね! 嫌よ! 繋がりがなくなるなんて! もう一人ぽっちになりたくない! 私は、繋がりが断たれることを望んでいないのに! 何でよ!」
「自然な死に方はもちろん、事故や病気、殺されても、死後繋がりが断たれることはないんだけどね。何度も言うけどシイちゃんは、ここで、自分自身の意志で自分の体との繋がりを断ったんだ。それがまずかったね。本来、霊と体は繋がっているもんなんだ」
語気を強めて一郎が、河原の詩織の体を指さして言った。
「それは、一郎に会いたいからだよ。ただ……それだけなのに」
「やり方がまずかったね。自分を大切にして人生を全うしたら、死後ずっと僕と繋がっていられたのに……」
「そ、そんな……。私、知らなかった……。知ってたらこんなことしなかったよ! もう一郎とは永遠に会えなくなるって、そういうことなの?」
それには答えず、一郎は、詩織の胸から出ている繋がりの糸を手に取った。月の光で、毛髪状の糸が幽かに光ってはいたが、それもいつしか消えようとしている。
「い、一郎……。助けて……。もうあなたと会えないなんて……。一人ぼっちになるなんて! 暗闇の世界に行くなんて! 私は嫌だ! 一郎! お願い! 助けて! 一人ぽっちは嫌だ! 嫌だ!」
詩織は、一郎に抱きついたが、もはやお互いが抱き合う事はできない。空気のように通り抜けてしまった。
「もう遅いや、僕にはどうすることもできないよ」
「いや! いやあああああ! 一人にしないで! 暗闇何ていやあああああ!」
頭を掻きむしり、髪を振り乱して詩織は、叫んだ。そして、その場にうずくまる。
一郎は、月を見た。詩織を救いたい。その情報を受け取ろうと耳を澄ましているようだった。
「シイちゃん……。こうしてシイちゃんと話せる今は、まだ離れきっているわけじゃない。闇の世界に行かない方法が、一つだけあるかも……」
一郎の言葉に、詩織はうずくまったまま拳を強く握りしめて震えている。
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