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さっきの絢音ちゃんの言葉を美織さんに伝えると、意外と納得したような顔でポツリと呟いた。
「……あぁ。察してるのかな」
「え、察するようなことあったの?」
でも、パパがいなくなった寂しさを漏らしていたことは言えなかった。言わなくたって、きっと美織さんは分かっている。
「この前ね、『ママ、はると一緒だと楽しそう』って言われちゃって。子供って案外よく見てるよ。私は隠してるつもりだったんだけど」
「……嬉しさダダ漏れだったのね」
「……これじゃ母親失格だよね」
なんとなくしんみりした空気になり、その空気に誘われたのか、美織さんはポツリポツリと本音を漏らし始めた。
「絢音さ、私の前で『パパ嫌い』って言うの。絶対そんなことないのに」
「……そうなのかな」
「私を悲しませないように我慢してるんだよ。そんな姿見てたら自分が情けなくなっちゃって……」
当然なのだが、美織さんは我が子の本音を察していたようだ。落ち込む彼女を抱きしめて慰めたかったが、ここはそういうことが許される場所ではない。
「分かった。じゃあ私が美織さんを守るよ」
「……え?」
「だって絢音ちゃんに頼まれたし。そのうちここに住み着くね」
「えっ、一緒に住んでくれるの?」
「えっ、はる一緒に住むの?」
いつの間にかお風呂を上がっていた絢音ちゃんが、髪を濡らしたまま、パジャマを着てそこに立っていた。
本気で嬉しそうな顔をしているので、私は慌てて自分の言葉を訂正した。
「えっ……いや。そのうちね。ママが許してくれたら」
「そうだよ。羽留ちゃんにだって都合があるんだから。それより絢音、ちょっと上がるの早いよ。ちゃんとシャンプー流した?」
美織さんはママモードに入り、バスタオルで絢音ちゃんの頭をわしゃわしゃして、そのまま寝室へ連れて行った。ドライヤーの音がするので髪を乾かしているのだろう。
少し待つと寝室のドアが開き、絢音ちゃんが「はる、今日はありがと!」と言ってペコっと頭を下げた。その後ろから美織さんが寝室を出てくる。
「じゃあ絢音、そろそろ寝なきゃね」
「え? ふっきんは?」
「今日は特別にお休みです。明日からまた頑張ろうね」
「うん。明日は100回やる!」
「ふふ。ママは80回かな。じゃあまた明日ね。おやすみ」
「おやすみなさーい」
寝室のドアがパタンと閉まると、美織さんは私の隣に座った。
「ごめんね騒がしくて」
「美織さんやっぱりママだね。っていうかママなんだけどさ」
「形だけだよ。絢音に教わることも多いし。もっと親らしくならなきゃいけないな」
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