夏の正三角形

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週末夜の駅前の歩道で、腕を組んだ男女カップルが私たちの横をすれ違った瞬間、頭の中で繋がってはいけない一本の線が繋がった。 これは何かの間違いだろう。 いや、絶対間違いだ。 そうじゃなければ私が困る。 女性の方は水商売の人だろうか。明るい色のロングヘアに露出度の高い服装。すれ違いざまに聞こえた男性との会話から、ずいぶん男慣れした様子が伺える。多少派手だがどこにでもいる若い女性だ。 問題は男性の方だ。 長身でスタイルが良く、街中の雑踏でも人目を引く。黒いキャップとサングラスで顔は分かりづらかったが、微かに聞こえたあの声は確かに『あの人』のものだった。そして何より、私が記憶している『あの人』と一致する特徴を見付けてしまったのだ。 私は思わず後ろを振り向き、このカップルの行方を目で追った。 二人は腕を組んだまま広い横断歩道を渡り、オフィスビル横の大きなマンションへと歩いて行く。 向こうは私たちに気付いていなかったようだが、あれは確かに美織(みおり)さんの__ 「羽留(はる)、どうしたの?」 気付けば、隣を歩いていたはずの(つむぎ)が少し前方でこちらを振り向いていた。まさかの光景にパニックに陥り、無意識に立ち止まっていたようだ。 「……えっ? いや、ごめん何でもない」 「そう? なんか疲れた顔してるけど、今日は飲むのやめとく?」 「いやいやいや行こうよ。久しぶりだから飲みたいし」 「ならいいけど。まぁ今週ずっと残業続きだったからね。疲れてたら早めに帰ろ」 隣を歩く紬の目を盗み、先ほどの男女が向かったマンションに視線を移す。 すると案の定、二人はそのままエントランスに消えて行った。
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