220人が本棚に入れています
本棚に追加
週末夜の駅前の歩道で、腕を組んだ男女カップルが私たちの横をすれ違った瞬間、頭の中で繋がってはいけない一本の線が繋がった。
これは何かの間違いだろう。
いや、絶対間違いだ。
そうじゃなければ私が困る。
女性の方は水商売の人だろうか。明るい色のロングヘアに露出度の高い服装。すれ違いざまに聞こえた男性との会話から、ずいぶん男慣れした様子が伺える。多少派手だがどこにでもいる若い女性だ。
問題は男性の方だ。
長身でスタイルが良く、街中の雑踏でも人目を引く。黒いキャップとサングラスで顔は分かりづらかったが、微かに聞こえたあの声は確かに『あの人』のものだった。そして何より、私が記憶している『あの人』と一致する特徴を見付けてしまったのだ。
私は思わず後ろを振り向き、このカップルの行方を目で追った。
二人は腕を組んだまま広い横断歩道を渡り、オフィスビル横の大きなマンションへと歩いて行く。
向こうは私たちに気付いていなかったようだが、あれは確かに美織さんの__
「羽留、どうしたの?」
気付けば、隣を歩いていたはずの紬が少し前方でこちらを振り向いていた。まさかの光景にパニックに陥り、無意識に立ち止まっていたようだ。
「……えっ? いや、ごめん何でもない」
「そう? なんか疲れた顔してるけど、今日は飲むのやめとく?」
「いやいやいや行こうよ。久しぶりだから飲みたいし」
「ならいいけど。まぁ今週ずっと残業続きだったからね。疲れてたら早めに帰ろ」
隣を歩く紬の目を盗み、先ほどの男女が向かったマンションに視線を移す。
すると案の定、二人はそのままエントランスに消えて行った。
最初のコメントを投稿しよう!