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心配しなくても既に私の心はカサカサだ。
フライドポテトで油分を摂ったところで潤うはずもない。
私は目の前でニコニコしている紬に「うん」と生返事して、氷で薄くなったぶどうチューハイのグラスに口を付けた。
しかし、酒でどうにか気を紛らわそうとしても結局あの光景が脳裏に浮かんでくる。
何故私があの男性にここまで執着するのかというと、それは男性の身体に特徴的な配置のホクロを見付けてしまったからだ。
つまり美織さんの旦那さん、悠也さんにも同じ配置のホクロがあるということ。右腕の肘関節付近に目立つホクロが三つ、正三角形を描くように並んでいると、以前美織さんが笑いながら話していた。
そしてそれは、半袖を着る季節にしか観察できないことから、『夏の』という枕詞が付いて『夏の正三角形』と夫婦間で呼ぶようになったらしい。
これだけ聞くと仲睦まじい夫婦像を思い浮かべるのだが、ここにきてそのイメージが崩れようとしている。
この不穏な思考をどうにか止めたい。
確かに珍しい特徴ではあるが、夏の正三角形を持つ男性がこの世に悠也さん一人しか存在しないとは限らない。
どうにかして別人だと証明する方法はないだろうか__
「__あ! そうだ!」
「ん? なんだどうした?」
ここで名案が浮かんだ。
紬が箸で掴んだホッケの塩焼きが皿にポロっと落ちる。
「たまには誰か誘おうよ!」
「え、いいけど誰誘うの?」
「美織さん誘ってみない!?」
疑惑を捨てたければアリバイを証明すればいいのだ。これで悠也さんが家にいれば人違いということになり、私はこの苦悩から間もなく解放される。
問題はいなかった場合なのだが、それはそれで他にも逃げ道は探せる。家にいないからといってさっきの男性が悠也さんとは断定できない、ということだ。
「お、いいね! ……っていやいや、さすがに無理でしょ。家のこともあるだろうし」
「ダメ元で誘ってみてもいいじゃん。来てくれたら楽しいしさ」
「まぁそりゃね」
「じゃあ電話してみる!」
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