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もちろん、ほぼ確実に断られるのは分かっている。週末のこんな時間に家庭持ちの女性に電話をかけるのはちょっと迷惑だということも。
心の中で『美織さん、ごめん!』と謝罪しながら呼び出し音を聞き、美織さんが電話に出てくれることを祈った。
『もしもし?』
私の身勝手な祈りは通じた。
ここからはどうにか自然に悠也さんの所在を確認するだけだ。
「お疲れ様で〜す!」
『おつかれー。どうしたの? 珍しいね』
「ねぇ美織さん今から出れない?」
『はいっ!? いやどうしたの急に』
「急に美織さんに会いたくなっちゃってさ〜。急だけど来てくれないかな〜って」
この強引な勧誘を平常時の私がやっていると誤解されては困るので、酒を免罪符にすべく必死に酔っ払いを演じる。
『なに、飲んでる?』
「紬と飲んでま〜す! ね、いいでしょ? たまには息抜きしようよ!」
『そりゃ私も行きたいけどさー、子供一人置いてく訳にいかないしさ』
子供、一人。
ということは悠也さんは不在だ。
私の願いも虚しく、この苦悩からの解放はお預けになってしまった。
「旦那さんは?」
『出掛けてる。飲み会だって』
「……そっかー。じゃあしょうがないね。また誘うから今度はぜひ来て!」
『はいはい了解。誘ってくれてありがとね。時間あるときは参加させてもらうから』
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