ふたつの呼び方

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 色とりどりのランドセルが、正門前へと続く歩道で並んで揺れている。私は水色のランドセル。(ふち)に刺繍がしてあってかわいくて気に入っている。 「おはよう、瑠夏(るか)ちゃん」  通学路でクラスメイトの海斗(かいと)くんが笑顔で話しかけてきた。 「あ、おはよう……あれ、海斗くんランドセルは?」 「え?」  体操服や水筒はちゃんと持ってきているのに、背中には何もない。 「え、嘘!」  海斗くんは背中を手で触って頭をキョロキョロさせた。 「やば! 忘れてきた! 取ってくるから、これオレの机に置いといて!」  水筒と体操服が入った手さげバッグを私に押し付けて、来た道を走って戻っていった。後ろ姿からでも分かるその慌てぶりを見て、おかしくて笑ってしまった。  小学校から海斗くんちまで徒歩十分ぐらい。全速力で家に戻ったのか、無事遅刻にならずに済んだ。片道徒歩三十分かかる私だったら絶対間に合わない。  息を切らし、肩を上下に揺らし、顔を真っ赤にして教室に入ってきた。   「瑠夏……ちゃん……あり……がと……」  海斗くんは苦しそうに呟いた。 「はぁ〜、きつ〜……」  席についてお茶をがぶ飲みする様子を見て、また笑った。 「海斗、ランドセル忘れたんだって?」
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