この恋は陽炎

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他に好きな男なんていないけど、そう決意した私に、ジンはハッとした顔を私に向けた。 「……他に好きな男、できたのか?」  え? ジンの焦った顔、初めて見た気がした。 「あ、いや。ごめん」 ジンはそう言って私に背を向けてドアに向かって歩く。 「じゃあ……幸せになれよ。ありがとうな」 別れ際、ドラマで聞く様なお決まりのセリフをあたしは聞いた。 実際に言われるんだって、少しだけ笑っちゃった。 でも、ジンは部屋から出て行こうとしない。 「……ははは。みっともねーな、俺」 「ジン?」 振り返ったジンの顔を見て、私はびっくりした。 良い大人が泣いてる。 「俺、お前を失いたくないみてー」 その言葉がスイッチになって私を動かした。 私も泣いてる。 ジンに抱きついて泣いてる。 抱きしめ返された腕の力が、いつもと違うと感じた。 ずるい男を愛したあたしが負け。 あたしの恋は、あの頃のまだ青いライムソーダの中みたいな真夏の陽炎じゃなく、熟成された赤ワインの様な恋に変わる予感がした。
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