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青年――ゾンネの家はもう一つの世界にあった。崩れた煉瓦と歪んだ木材、その他色々な資材を組み合わせ、器用に空間が作られている。
普段なら落ち着くはずの小さい空間は、僕に安心感をくれなかった。床である土の上が、あまりに冷たいからかもしれない。
「食える?」
真横から差し出されたのは、小さくカットされたパンだった。とは言え、知っているパンとは全然違う。ゾンネの持つ錆びたナイフの臭いがするし、何より乾いて固そうだ。
しかし、空腹には耐えられず一口かじって止まった。やっぱり美味しくない。
「やっぱだめか」
躊躇いを沸かしている間に、ゾンネは摘まんでいたパンを自らの口に放り込む。カットされていないパンも、噛みちぎって次々と体内に納めていた。
「じゃあ、これ食ったら行くか」
*
左腕で優しく抱えられ、夜と影の中を行く。僕らを眺めていた月さえ、死角に収まる場所で止まった。不安も一緒に到着したのは、どこかの建物の裏だった。
下ろされかけて拒む。鼻を捻る臭いが着地を拒否したのだ。臭いは、広がるゴミの海が発していた。
ゾンネはゴミに手を突っ込み、パンを一つ救いだす。裏側は汚れていたが、表面は割りと綺麗だった。
よく見ると、様々な箇所でパンが泳いでいた。ゾンネは僕を抱えたまま、ナイフで汚い箇所を切り取る。それを煤けた麻袋に放り込んだ。
「この辺、捨てられてそんな経ってないと思うから、まだお前でも食えると思う」
呟きながら、何度か同じ行動を繰り返す。帰宅後もてなされたパンは、食べられたもののやっぱり美味しくなかった。
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