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黄色い頭っていうと、てっきり金髪に染めた人を連想するが、目の前にいる黄色は黄色のペンキをかぶって黄色になっている黄色い田仁志だった。
「なっんで、こんなところにペンキが!?」
俺の目の前で見事な黄色に染まった田仁志が叫ぶ。着ているものも黄色だ。どうにかして前後の区別はつくので、あれが目であれが口だろう。パクパクしている。
「スマホに夢中で足元を見ていなかった田仁志が悪い。」
「足元に注意しても、ペンキは上から落ちてきたぞ。」
「それがこのピタゴラスイッチの凄いところで、お前が足元の石を蹴る→石がディスプレイされているお店の看板のオブジェに当たる→オブジェだと思っていたブリキ缶にペンキが入っていて落下→それを田仁志が被る。となったんだ。」
「とんでもねぇ、ピタゴラスイッチだ。」
「まあ、そこの公園でペンキ落とせよ。」
「この寒空の下、冷たい水を浴びろってか?」
「この師走の人通りの多い中、周りの注目を浴びるよりはマシだろ。」
黄色の張本人の店は定休日らしく、文句の一つも言えないまま、ブリキ缶をそっと元の位置に戻し(こういう時身長が高くてよかったと思う)公園に向かった。
鞄の中からタオルを出して公園の水道で濡らす。タオルを絞るときの手がかじかんでそのまま硬直しそうだ。いや、硬直した。真っ赤になってしばらく微妙な指の角度で動かなくなったから。その冷たいタオルを田仁志の頭にのせる。ヒャアーーーと小さな悲鳴を上げて髪をグシャグシャとタオルに黄色を吸わせる。タオルで髪を擦るたびに元の黒髪が戻ってくる。黄色と黒でなんだか蜂みたいだ。いつもうるさいし、ちっさいし、なんだか似ているかもしれない。まあ田仁志は虫嫌いだから蜂みたいだなんて言ったら回し蹴りを喰らうのは必然だ。
髪の色が戻ったところでタオルを一旦洗う。着ているものの被害はどうやらブルゾンだけらしいのでそれも軽く洗ってビニール袋に入れる。しかしこの季節、ブルゾンやジャケット無しで外を歩ける気がしない。田仁志は制服姿のままで肩を震わせていた。髪はビチャビチャだし。風邪をひかない方がおかしい格好だ。
やさしいやさしい俺は巻いていたマフラーとコートに入れたまんまだった手袋を田仁志に貸した。コートも剝ぎ取られたのでそのまま貸した。俺の方が寒そうになってしまった。
「寒い。」と俺が言うと、
「俺も同じだ。ってか俺の方が寒い。」と田仁志が言う。
「あ、自販機発見!!」と、田仁志が公園の隅に走っていった。だが、財布は鞄の中。どうするんだろうと思っていたら、何やら飲み物を確保して戻ってきた。まさか、、、
「いや、ズボンにスマホ入ってるから。ペイペイで。」
と、差し出された飲み物は熱いお茶だった。
「お前珈琲系苦手だろ。でも他に温かいのって言ったらそれしかなかった。」
手のひらサイズの小さいペットボトルに緑色のラベル。熱いと感じたのは一瞬で、その熱はすぐに温くなった。
俺が差し出したもの→タオル、ビニール袋、マフラー、手袋、コート
田仁志が差し出したもの→お茶、俺への微量な気遣い
これは、お釣りがくるな。
お茶、頭、黄色
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