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「オオサンショウオウオって見たことある?」
「もしかして、オオサンショウウオのこと言ってる?」
「ん?そう言ってない?」
「オオサンンショウオウオって言った。」
「なんだよ、オウオって。」
「いや、聞いてるの俺だし。」
「まあいいや。」
コイツの話はいつも脈絡が無くて、唐突に始まって、猛然と終わる。
今日は寒くて寒くて、寒すぎて教室のストーブの前から動けなくなっていて。着てきた外套も脱げないくらいに俺の身体は凍っていて。
凍ったまま、固まったまま少しでも体が動くようになれと手をかざしていて。
そんな時にひょいと隣に座りこんだのが、加住だった。
同じグループじゃないのに、時々話しかけてくる変な奴。変な奴が来ることを楽しみにしている俺も相当な変な奴だと思う。
「ストーブじゃなくて、足湯置けばよくね?」
「まず、裸足になりたくないんだけど。」
「でも、ストーブより温まると思うけどな。」
「設備にいくらかかると思ってんだよ。」
「え、ストーブの上に鍋とか置けばいいんじゃね?」
「それは、足湯じゃなくて五右衛門風呂になるだろ。死ぬぞ。」
「え、五右衛門風呂ってなに?お相撲さんとか?」
「昔処刑された盗人。」
「えーなんでそんなん知ってるんだ?さてはレキジョだな。」
「昨日の社会の資料集に載ってただろ。それに女じゃねーし。」
「え、レキジョって女なの?」
「歴史好きの女子って意味だろ。なんだと思ってたんだ?」
「歴史を上手に説明できる人。」
「確かに。って、違うわ!」
こんなくだらない会話をしていると朝礼のチャイムが鳴った。ぎこちなく手を動かすと、指の第一関節までは自由にできるようになった。先生が来るので自分の席に戻る。
オオサンショウオウオ、歴史を上手に説明できる人、結構物知りだと思っていた自分の脳のメモリーに新しい単語が入った。
こいつといると本当に飽きない。
メモリー、サンショウウオ、足湯
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