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ナナの結婚(10)
それから1週間後。長谷川家では、せっかく覚えた猫犬兼用の手話をタマは使わずにいた。ただ、長谷川家の家族がタマに話しかけると、首を横に振ったり、縦に振ったり、意思表示はしている。
一方、ミミはというと、田中先生と猫犬兼用の手話を使って会話を楽しんでいた。
そんな中、長谷川がいつものように大学に行こうとすると。長谷川に向けて、タマが猫犬兼用の手話を使っている。
立ち上がって、左前足に右前足を乗せた。これは、動物病院に連れて行って、という意味になる。
長谷川はタマに、どこか痛いのと聞くと、首を横に振り。更に、どこか具合が悪いのと聞くと、首を横に振り。とにかく、動物病院に連れて行ってと言っているように思え。リビングの時計を見ると、午前8時を過ぎ、木村動物病院はまだ開いてない。そこで、急ぎ鈴の自宅に行くことにした。
困惑しながらも長谷川は、タマをドライブボックスに乗せ、急ぎ鈴の自宅へ車を走らせ、20分が経ち。鈴の自宅へ着くと、急ぎタマを抱えて、玄関を開けた。
すると、いきなりタマは、長谷川の腕を振り払うかのように飛び降り、リビングへ行き、ソファーに座ってテレビを見ているナナの前に行き。
「ナナ、俺と結婚してくれ、頼む!」
タマは、深々と頭下げたまま動かない。
付き合ってもいない、好きだとも言われていないナナは、突然の告白に戸惑うというか、意味がわからない。ただ、冗談ではないことだけはわかっていたが。
「はぁ!? なんの冗談? 意味わかんない、突然結婚してくれて、説明してくれる!?」
タマは、頭を上げ、その場に立ち上がり。
「言っとくが、これは冗談じゃない、俺は真剣だ。俺は、お前の心に惚れた、お前の女気に……」
「心に!?」
「とにかく、お前は凄すぎる、いい根性している、メンタルも強い。しかし、お前は優しすぎる、常に前を向いて生きている。自分よりも、動物のため、人のため、に頑張っている。生きようという執念までも感じる、理屈じゃないだよ。そんなお前だから惚れたんだよ」
ナナは、ソファーから降り、タマの前に座り。
「あなた気持ちは、わかった。でも、まさみちゃんへ、想いはどうなの?」
「まさみさんは、大事な家族。俺が惚れているのは、ナナ、お前だ、俺が結婚したいのは、ナナしかいない」
「……そこまで言われたら、結婚してあげる。どうやら私もあんたに惚れているようね」
この時、ソファーの周りには、鈴たち家族と長谷川が、ナナとタマの会話を聞いていた。しかし、タマの声は当然聞こえていない、聞こえていたのはニュースから流れる声と、ナナの声だけ。ムードも何もあったものではないが、ナナの声だけでこの状況を理解し。みんな結婚おめでとうと、ナナとタマを祝福し。まるで子供のようにこのことを1番喜んでいたのは鈴だった。いったいどんな子供が生まれるのだろうか、そのことが頭をよぎり。そして、ナナもそんな思いに駆られ。もしかしたから、私の後継者ができるかも、と頭をよぎった。
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