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Episode 19 陸の孤島
ケイはレイラの手を引きながら部屋を出ようとしたが、こちらも既にベンジャミンが手を打っていた。ガラス張りの外、廊下が慌ただしくなり数人の男たちが部屋にやって来た。
「交渉をぶち壊してすんなり帰すわけには行かないな。もう一度チャンスをあげよう、席に戻りたまえ」
「何度も言わせるなよ、交渉決裂だって事さ」
ベンジャミンの言葉にケイが言い返した。すんなりドアからは出られないと悟ったケイは、回転椅子を持ち上げると廊下に面したガラス張りの壁に椅子を叩きつける様に投げ出した。一部分に亀裂が入るとあとはモロかった。ガラス細工が粉々に割れるかの様に部屋を覆っていたガラスが割れ、部屋は丸裸になった。
「こっちだ、レイラ!」
ケイはレイラの手を引きながら割れたガラスが散乱した壁から出て行く。ケイは預けたガバメントの場所を探し、ボディチェックを受けた部屋の入口に回り込む。防犯カメラをハッキングしていたジャックはケイとレイラの姿を捉えると、ケイに告げた。
「ケイ、入口の隣にあるカウンターの中に引き出しがある、銃はそこだ」
ケイはジャックの声を聞き、カウンターに向かう。が、既にベンジャミンの部下たちに取り囲まれてしまった。こういう場面には慣れているケイ、暇があるとシティにあるボクシングジムでサンドバッグやミット打ち、屈強な男たち相手のスパーリングで汗を流し鍛えている。男たちがケイを摑まえられず、簡単にカウンターを飛び越えたケイ。しかし、その代償にあっさりとレイラは捉えられてしまう。そこはケイにとって想定内だ。引き出しを開けると、愛銃のガバメントが顔を出した。安全を考慮してかマガジンが外されていた。それを一瞬で装填し、カウンターから顔を出したケイ。二人の男が両脇からレイラの腕を掴んで自由を奪っている状況下、ケイは躊躇なく左右の男に一発ずつ、致命傷には至らない腕と脚に45ACP弾を撃ち込む。悲鳴をあげてその場にしゃがみ込むレイラ。そのレイラの腕を再び掴んだケイだが、廊下の向こうからスーツ姿の集団、ベンジャミンの部下たちが銃を手に走って来るのが目に入った。
「逃げるよ、レイラ」
廊下の反対側に走り出すケイとレイラをベンジャミンが止めた。
「まだ商談は終わっていない」
「しつこいな、交渉決裂と言ったろうが!」
ベンジャミンの隣に座っていた弁護士が、AKの小型ライフルを脇に抱えケイとレイラに向けていた。ただの弁護士ではなかった。
「へえ――シティの一流弁護士さんはAKを携帯して裁判所を出入りしてんのかよ?そりゃあ百戦錬磨の弁護士だ、裁判に負ける気はしないだろうさ」
「あんたに用はない、随分凄腕の側近らしいが、こういうビジネスとは無縁だろ? 部外者はお引取り願おうか」
ベンジャミンがケイを脅す。弁護士はAKをケイらに向けて無言で立っている。が、廊下の向こう、エレベーター付近が騒がしくなった。銃声が鳴る。ベンジャミンは何が起こったのか弁護士と顔を見合わせる。
「ケイ――、無事か?」
ビリーDの声だ。ベンジャミンに促された弁護士の男が様子を見にガラス張りだった壁を跨ぐ様に廊下へ出た。途端に両手を上げて降参の意思表示をした。ショットガンをいつでも発砲出来る様に構えているビリーD、後に続く手下の数に恐れを抱いたのだろう。
ベンジャミンは机の上のデジタルインターホンを押し別の部屋にいる部下と連絡を試みたが回線が遮断され不通になっていた。ジャックがビル内のコンピューターシステムを全てハッキングしたため、内線はもちろん、外部への連絡も断たれており警察の介入も出来ない。ベンジャミンのオフィスが入っているビルは文字通り陸の孤島と化した。
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