Episode 7 ペドロとの再会

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Episode 7 ペドロとの再会

 ケイが瞬時に敵の位置と数を目視すると同時にガバメントとベレッタをフル稼働させる。ダン! ダン! ダン! ズドン! ズドン! 「クソったれ、10人もいやがったのか!」と、ケイが叫んだ時には既に半数の敵を仕留め、戦闘不能状態にしていた。 「ロブ、出て来るなと言ったろうが――! ガレージに引っ込んでな!」  怒鳴るケイ、そうだ、ビリーDは? ケイはビリーDを探した。ライフルの男と倒れ込みながら格闘している。マズい、助けないと……ケイがそう思い、廃車の陰から飛び出しかけた時、ロブが叫んだ。 「姐さん、待って!」  サーチライトを照らしながら上空に現れた五機のドローン、Nシティ警察の攻撃型鎮圧ドローンだ。一気にガレージ前の光景が眩しいくらいに浮かび上がる。逃げ惑う敵の連中だが、五機のドローンは動く物体を捕捉すると自動センサーが働きサーチライトから逃げられない仕組みだ。反対側からNシティ警察署の機動車輌が次々にやって来た。 「こちらはNシティ警察だ、武器を置き両手を頭の後ろへ! 抵抗する者は撃つ、素直に従え!」  スピーカーから聞こえて来た声の主は、Nシティ警察署長のペドロだった。    シティ警察署の取り調べ室の一室、手錠をかけられたケイ。机の上に両足を投げ出しながら火の点いていないラッキーストライクを加えイラついた様子だ。既に朝を迎え、疲労も重なって時おり猛烈な睡魔に襲われた。しばらくすると、取り調べ室のドアが開き警察署長のペドロと若い白人の制服警官が入って来た。制服警官は両手に二人分の紙コップを持っている。湯気が立っているコーヒーの匂いがケイの鼻をくすぐった。ペドロは透明のビニール袋に入ったケイのガバメントとベレッタを手に提げている。  若い制服警官は机の上にコーヒーの入った紙コップを置くと、ケイを睨んだ。ケイも視線を外さず睨み返した。 「手をやかせるなよ、署長は忙しいんだ。お前らチンピラギャングなんかの相手をしてる暇なんてないんだぞ!」  白人警官はケイに嫌悪感を剥き出しにして言った。ペドロが手で制しながら「もう良い、あとはやるから仕事に戻れ」と言うと、白人警官は態度をガラッと変えてペドロに敬礼すると部屋を出て行った。それを確認するとペドロは軽く溜息をついた。 「最近入った新入りだ。お前と俺の関係なんぞ知りもしないから大丈夫だ。あの手の奴は扱い易いが、いかんせん真面目過ぎて融通が利かん」  ペドロはそう言ってケイの手錠に鍵を差し込んで手錠を外した。ケイは手首を揉みながら両手を回してほぐす。 「久しぶりだな、ケイ。少しはまともにやってるかと思ったが、お前には無理な話しだったか」と、ペドロは苦笑した。 「私にまで手錠をかけることはないだろ、襲撃されたのはこっちだぜ、被害者だよ」  ケイは両手をほぐすとオイルライターで加え続けていたラッキーストライクにようやく火を点けた。肺いっぱいに煙を吸い込んでから紙コップのコーヒーを啜った。 「他の連中の手前だよ、お前だけ特別扱いしたら周りの連中はどう思う? 以前とはもう状況が違うんだ」 「ビリーDとロブは?」 「別室で取り調べ中だ。ロブってのは新しい相棒か? まあ、あの小僧とアニエス、いや、今はジャックか……二人に感謝するんだな。通報が来なかったらいくらお前でもあの人数じゃヤバかったんじゃないか?」 「奴らは結局何者なんだ? ペドロ、"kill the king"って集団の事は?」 「ああ、もちろん知ってるさ。FBIが乗り出しているくらいだからな。ウチのサイバー犯罪課も動いちゃいるが、相手がデカ過ぎて話しにならんレベルさ」 「連中の取り調べは?」 「吐かないよ、ビリーDの処とヤクの売買と縄張り争いで揉めてるの一点張りだ」  ペドロは机の上に腰を乗せてコーヒーを啜りながらケイの顔を見下ろした。ケイは心ここにあらず、そんな表情だ。 「検証が終わるまでしばらくガレージには近づくな。地下室に関してはバレない様に手を打ってあるから安心しろ、誰も気がつくまい」と、ペドロは言い、更に言葉を繋ぐ。「ビリーDとあの小僧は数日預かるぞ、悪く思うな、これも部下たちの手前、形式的にそうせざるを得ないんだ……その代わり、お前は証拠不十分で釈放だ。アパートへ帰って少し休め、シンディにあまり心配かけるな」  ペドロはそう言ってビニール袋に入ったケイのガバメントとベレッタを差し出した。ケイは袋から二丁の拳銃を取り出すとライダースジャケットの中のホルスターに収めた。ケイは立ち上がると、無言のまま部屋を出て行こうとした。ペドロはケイの後ろから声をかけた。 「ケイ……お前、この世界から足を洗う気はないのか?」  ペドロの言葉に足を止めるケイ。その問いには答えず「Thank youな、署長さん……」と言って部屋を出て行った。    ネット空間の更に深淵、シャドー・ウェブ内、"kill the king"の集会場所。現実世界でこの模様を見ることが可能なのは文字として表れる掲示板のみ、当然表層ウェブでは不可能でシャドー・ウェブにアクセス可能なある程度の技術を持ったプログラマーかハッカーくらいだ。 「二度の襲撃に失敗したと報告が来たが、例の黒人ギャングのボスはともかく、東洋人の小娘とは?」 「凄腕です、噂には聞いておりましたが……あの小娘がいる限り、あの黒人には手が出せません」 「フン、もう良い。回りくどい事は止めよう、あの黒人ギャングのボスとてまだ利権を持ってない筈だ。利権を独占している財閥のリチャードとかいう老人を直接攻めた方が早そうだ」  オープンフィールドで開かれている"kill the king"の集会、最後列で話しを聞いている有名なアニメキャラクターのアバターに扮したジャックが居た。まさかこのシャドー・ウェブの深淵にリチャードの片腕でもあるジャックが簡単に侵入している事を知る者は皆無だった。
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