Episode 10 ビリーDの商売

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Episode 10 ビリーDの商売

 シティの中心街、いわばシティの中でも繁華街とされる場所。その地に構えるクラブ〈SEX UP〉。入口に立つビリーDの手下がケイを見るなり顔色を変えた。 「この間の小娘!? な、何しに来た?」 「どきな、ビリーDに用がある」 「ボスからは入れるなと言われてんだよ!」 「そのボスみたいに弾を喰らいたいならそうしてな」  ケイがライダースの革ジャンに手を入れる動作を見た手下の男は後ずさりする。 「わ、わかった、わかったよ、オイ!」  手下の男が側にいたもう一人の男を呼び、「ボスのところに連れて行け」と命じた。  クラブ内はいつものようにパーティタイムの大騒ぎで音と照明にあてられてケイは頭がクラクラする感覚を覚える。  VIPルームのソファーで相変わらずふんぞり返るビリーDがいた。ただ、前回と違うのは横に松葉杖が立てかけられているという違いだけだった。  ビリーDはケイの姿を見るや驚きを隠せず思わず立ち上がろうとするが、ケイに撃たれた太腿の痛みで立ち上がる事が出来なかった。 「な、なんだ、テメェ、何しに来た?」 「そんな脅えるなって。いつものように威勢良く振る舞いなよ」  ケイはそう言ってテーブルの上に腰を降ろすと煙草を一本取り出しオイルライターで火を点けた。 「あんた、日本人の観光客に電脳ドラッグを売ったね、捌けば倍になるとか上手いこと言ったんだろ?」 「ああ、言ったさ、言葉もわからねえくせにのこのこシティなんかに来るからさ。どうせしこたま金を持ってる観光客だろ、こっちはちゃんとそれなりのブツを渡したんだ、金を盗んだわけじゃねえんだぜ、商売だよ」 「それは良いんだよ、私が聞きたいのはブツの出処さ。あのブツ、どこから仕入れたんだい?」 「悪いがそいつは企業秘密だ」 「ふ〜ん、そうかい。そんじゃ今度は松葉杖じゃなくて車椅子に乗りたいって事だね」  ケイが懐から素早くガバメントを抜いた。その場の空気が一瞬凍りつくが、今回は周囲の手下共もたっぷりと武装していた。数人がケイに向けて銃口を向けている。 「へへへ、残念だがネエちゃん、車椅子とオムツが必要になるのはそっちだぜ」 「……そうかもね、けどそうなる前にあんたの頭が先に吹っ飛ぶから続きは あの世で見るんだね」  ケイは一歩も引く気配すら見せない。ビリーDはケイの銃爪にかけた指を凝視する。少しづつ力が入って行くのがわかる。唾を飲み込むビリーD。この小娘は容赦なんてしない……。 「待て――、わかった、わかったから銃を下ろしてくれ! オマエらも下ろすんだ!」  手下共がゆっくり銃を下ろすのを見てケイも静かに銃口を下げて行く。ビリーDは深く息を吐き出すと、目の前のグラスに入ったジンをひと息で煽る。 「カークって言うキザ野郎だ、奴はシティの電脳ドラッグ利権を狙ってるってもっぱらの噂だぜ、二つの仕入れ元に良い顔して取り繕っていやがる」  チッ、あのキザ野郎、やっぱり食わせ者か……と、ケイが心の中で呟いた。  シティの中でも最高級のホテル。その最上階のレストランで会食しているのは電脳ドラッグの利権争いの一角を手中に収めるシティ警察の署長フォレスト。そして、Nシティのマーカス知事の二人。ワイングラスを手に談笑している。 「あなたにはいろいろ配慮をしてもらい感謝してますよ、知事」 「それはお互い様だ。シティは君のおかげで治安を維持出来ている、あとは漂流者たちの一掃が叶えば私の都市開発計画も理想図が完成する。期待をしているよ」 「お任せ下さい、ゆくゆくは知事に議員として地方選挙に名乗り出て頂く手はずを考えておりますゆえに私としても最大限のバックアップを惜しみません」
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