Episode 1 彼女の弾倉には7発

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Episode 1 彼女の弾倉には7発

 まずは暗闇に誘い込む、または暗闇を作る。敵の姿が見えない程の恐怖はないからだ。見えない敵に向かいデタラメに発砲、こちらから仕掛けなくても相手の弾数は確実に減って行く。暗闇の恐怖、敵が見えない恐怖、手を出して来ない恐怖、そうやってじっくりと恐怖を植え付けるのだ。  相手は10人、プラスαってとこか……。ケイは一呼吸置いて考える。ファーストマガジンは全て射抜く、つまり、ガバメント1911(ナインティーンイレブン)の弾倉数は7、最初の攻撃で弾倉7発分=7人を絶対仕留める、それが鉄則だ。  ワン、ツー、スリー……フォー、良し! 次、ファイブ、シックス、セブン……上出来じゃん! カラになったマガジンを落としセカンドマガジンを装填したらひと息入れる。タンクトップの両肩口にうっすらと汗が浮かび、右上腕の十字架、左上腕の龍、それぞれのTattooの上を滑り落ちる感触。ラッキーストライクを一本くわえオイルライターで火を点けた。今や化石になった紙タバコ、闇市場で一箱平均約20ドルを馴染みの故買屋から一箱5ドルで買い叩いて手に入れている。肺の奥深くまで煙を吸い込む……うっめえ~! 奴らはこうしている間にも勝手に無駄弾を弾く……こっちは余裕、奴らは自滅。さて、無駄な残業はしない、これもケイの流儀。再びカウントする、ワン、ツー、スリー、フォー……ファイブ、ファイブ……少し待つ。うん、どうやら終了。セカンドマガジンの残弾数は2。無駄弾は撃たない、これも経費節約、大事なことだ。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※  いつの時代にも街がある処に犯罪組織あり。Nシティと呼ばれる以前はイタリアンマフィア、チャイニーズマフィア、メキシコ系アメリカンのチカーノ、ジャパニーズヤクザ、と、一昔前なら街を牛耳っていた犯罪組織も時代の流れと共に様変わりする。シティと呼ばれる時代になってから蔓延っているのは主に多国籍入り混じったギャング組織だった。シティの街を分割すれば、分割した分の数は確実に存在するギャング集団。  Nシティの中心街、とあるナイトクラブのVIPルーム。黒人のボスと側近たち、そして彼らを饗す艶やかで派手な如何にも卑猥そうな女たち。 「電脳ドラッグにも質の良し悪しがあるなんてのは初耳だな」  前歯だけ金色に誂え、口を開くたびにキラキラ輝かせる黒人のボス。足元には床にひざまずいて脅えきっている売人。 「ハイ、それは試して頂ければ、ハイ、一発でおわかりになるかと、ハイ」 「昔から言うじゃねえか。ドラッグってのは使うものじゃねえ、売り物なんだ、てよ」  そう言うと、赤いカプセルを指でつまんで照明にかざしながら中身を覗き込むようなしぐさをした黒人の男。 「ま、でもオレらは両方だけどな。で、何錠だ?」 「ハイ?」 「だからさ、何錠飲めばHigh(ハイ)になるんだ? ってことよ」 「いえいえ、1錠ですよ、ハイ。1錠飲めばそりゃもうドカン! と」 「ふ〜ん、そんじゃ試しに10くらい行ってみるか?」 「10? そいつは毎度、ありがとうございます!」  黒人の男は売人がテーブルに置いたピルケースを掴むと手招きして見せた。 「ハイ?」 「ハイじゃねえよ、試飲ってやつだ。どのくらいのモノか試してもらわねえと買う方としちゃ不安だわな」  周囲を取り囲んだギャングの連中から薄笑いが漏れる。二人が売人の男を両脇から抱えるとテーブルの上に仰向けに押さえ込んだ。 「ほれ、口を開けな」 「いや、それは……勘弁して、勘弁して下さい」  押さえ込んでいた一人が売人のみぞおちにおもいっきり肘打ちを入れると、「グェー!」と売人の男は苦痛で口を大きく開けた。そこへ黒人の男はピルケースの中身を全部注ぎ込むと、テキーラのボトルを掴み、中身をドバドバとその上から更に注ぎ込んだ。売人を押さえ込んでいた片方の男が顎を掴んで強引に口を閉じらせる。売人の男はグブ、グブっと音を立てながらテキーラと何錠あるかもわからない数のカプセルを飲み込んだ。途端に売人の男はテーブルから上体を起こすと、一旦飲み込んだカプセルをテキーラと共に床に吐き戻した。  腹を抱えながらゲラゲラと笑うギャングたち。売人の男は涙目になりながら四つん這いでその場から逃げ出したが、途中でピタッと動きが止まり、倒れ込む。ズボンの下腹部が失禁でみるみる濡れて来るのがわかった。そしてヘラヘラと笑い出したかと思うと次の瞬間にはパタリと動かなくなった。ギャングの一人が近くまで行き確かめると、手で十字を切る仕草をした。VIPルームのギャングたちから歓声が上がる。DJは最高潮を演出し、場の空気を音楽と照明が盛り上げて行く。 「なるほどな、電脳化してない生身の脳だとこうなっちまうわけか。使えねえ、売りモン専用だな」  手下の一人が飛び込んで来る。近くにいる奴に耳打ちすると次から次へと言葉が渡り歩いて行く。黒人のボスに行き渡る頃には様々な脚色が加わりちょうど良い按配になる。 「チッ、また出たか、今月に入っていくつ潰されてんだ?」  黒人のボスがグラスのテキーラを一気に煽る。 「クソ野郎共が、たかが小娘ひとりに何を手こずってやがるんだよ――!」
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