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Episode 20 壊滅
ビル内にいたベンジャミンの部下たちは一部屋に集められ、ビリーDの手下たちに囲まれて銃口を向けられている。中には弁護士の姿もあった。ガラス張りだった会議室にはベンジャミン、ケイ、レイラが最初と同じ位置に座りまるで何事もなかったかのようだが、部屋の隅にはビリーDが立ったままベンジャミンを監視し、ロブは机にラップトップを置きキーボードを叩いている。一通りの準備が出来るとロブはラップトップの画面を三人が座る位置から見えるようにラップトップをくるりと回した。画面にはジャックが映っていた。
「最初からこれが狙いだったのか?」
「そう、サイバー空間内で僕一人が"kill the king"とやり合うのは無理だからね。現実世界でなら僕らにも勝機はあった。そのためには"kill the king"の首領である君を現実世界で見つけ出す事が最優先だった」
「あんたはいったい何者なんだ?」
「僕はジャック、そこにいるレイラのアシスタントみたいなもの」
「そうか、あんたらが……リチャードが遺した子供たちって事か」
悔しさが滲み出ているベンジャミンの表情を見ながらビリーDが口を開いた。
「で、ジャック、結局こいつらをどうする?」
「"kill the king"の解散、そしてFBIへの投降だ、仮に投降しなくてもこっちは証拠を全て握っているから通報するだけだがね」
「馬鹿な……有り得ない……」
ベンジャミンの顔が青ざめる。下を向き肩を震わせていたが、しばらくすると顔を上げて笑い出した。部屋内にいる全員がベンジャミンに視線を向けた。その時点でベンジャミンが手にしている銃に気づいたのはケイとビリーDだった。ベンジャミンが銃を構えるより早く反応したケイとビリーDが反射的に銃を向けた。しかし、ベンジャミンが手にした銃は誰に向けるでもなく、銃口を自らのこめかみに当て、その行為がまるで自然かのようにベンジャミンは銃爪を弾いた。その瞬間、レイラは顔をそむけた。ビリーDとケイはゆっくりと銃を下ろした。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
一ヶ月後……。
シティのダイナーで朝食のテーブルを囲んでコーヒーを啜るビリーDとパンケーキを頬張るロブ。店に備え付けのTVモニターは朝の主なニュースをリピートしながら放送していた。トップニュースはリチャード財団の新理事長として記者会見に応じるレイラの姿があった。電脳ドラッグの医療用効果、大手製薬会社との提携、そして生成、今後一年以内を目処に国の認可を受けることになる、という説明が顧問弁護士より発表された。理事長であるレイラが一言を求められ、「一人でも多くの人々を病の苦しみから解放する、その時が来ました。今日、ここに至るまでにたくさんの友人たちの助けがありました。この場を借りて感謝を。そして、電脳ドラッグという言葉は今日をもって正式名称ではなくなります。どうか皆さん、街中でこの名前を聞いても近づかないように願います」
フラッシュが焚かれ、レイラは微笑んだ。製薬会社の会長と手を取りながら……。
「ストリートで名前を聞いても近づくな、か。ケッ、急にあちら側の人間にすり変わりやがって。所詮ブルジョアだ、オレらとは住む世界が違うな」
「結局、利権は彼女とジャックさんの二人で管理するんですか?」
「ああ、まあ、オレらみたいなアナログ人間に扱えるブツじゃないってことさ」
「あれ、一緒にしないで下さいよ、ボスや姉さんと違って僕はアナログじゃないですから」
ロブが不満そうに言った。ビリーDは「そいつは失礼したな」と、投げやりな口調で返した。医薬品開発企業とまで手を結んだ利権自体は確かにあまりにも強大過ぎてビリーDの手には余るものになってしまった。簡単に諦めはついたが、タダ働きをしたようで何とも嫌な気分だった。
「ところでケイの奴は何してるんだ? この一ヶ月、まともに会ってないぞ」
「さあ、おそらく新車を乗り回してんじゃないですかね……」
「新車? バイクのか? 前のポンコツを修理したんじゃなかったのか?」
「あまりにデカい報酬が入ったんで気が変わったみたいですよ。なんせ財団が保有する株から十パーセントも貰ったんですからね、ウチらも株主ですよ」
ロブの言葉を聞いてビリーDの表情が一変した。
「オイオイオイ、何の話しだよ、そいつは?」
「ジャックさんとレイラさんからの報酬ですよ。ボスと姉さんには今後もよろしく頼みたいと」
「聞いてねえぞ!」
「姉さんがボスに言うとロクな事に使いかねないからって。姉さんの分も含めてオレにしっかり管理しろと。そのための金庫番ですからね、オレは」
"kill the king"の一連の出来事は終止符が打たれた。深層ウェブ内のシャドーウェブには"kill the king"のフォーラムが開かれることは二度となかった。
シティのブリッジを疾走するケイの新車のモーターバイク。最高の気分のケイ。スロットルを回して加速し、前方の車輌間を縫うように追い抜いて行く。と、背後からNシティPDの白バイが一台、いきなり独特のサイレンを発して警告して来た。バックミラー越しにそれを見たケイは舌打ちしながらスピードを緩め、ブリッジの端しにバイクを停めた。
ケイの直ぐ後ろに白バイを停めたシティPDの制服にヘルメット、サングラス姿の警官はゆっくりケイに近付いて来た。
「そんなに出てたかな?」そうケイが尋ねると、白バイ警官はその質問には答えず、ケイの隣に近寄ると一言呟いた。
「あんた、シティで凄腕と言われているケイだな?」
その言葉に表情を曇らせるケイ。直感が働く。こいつ、警官じゃない……。
「話しがある、NOって言葉は吐くなよ」
周囲から見えないようにケイの脇腹に拳銃が突きつけられていた。
Chapter 2 〈Cyber Destruction〉完
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