Episode 2 漂流者の過去

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Episode 2 漂流者の過去

   母親が亡くなる前、ティーンエイジャーで血気盛んだったケイは同じように異国の地からシティに流れ着いた同世代の連中とつるんでいた時があった。様々な理由で自国からシティにやって来た彼、彼女らは世界を憎み、世の中を憎んでいた。戦争、貧困は今に始まったことではなかったが、時代はそれらを含めコンピューター社会が膨張し続けビッグバンを起こした。新たな時代がそこに産まれた。地球上のありとあらゆる物がコンピューター管理される社会に……。内戦、人間不在のコンピューターによる政治、カオスと化した国々から自由を求めて亡命、逃亡して来た人間をもはや難民とは呼ばない世界。漂流者……Nシティではそう呼ばれた。  他国へ渡るには大昔程難しいことではなかった。国は出て行く者を厳格な法律で引き留めやしない。むしろ、気にいらなければ自由にどうぞ、但し、行く先々で何があろうと自己責任で自国に頼ってくれるな、そういう世界、社会が出来上がっていた。  親や兄弟姉妹、もしくは一人でシティにやって来たそんなティーンエイジャー達が真っ当な生き方なぞ出来るわけもなく、ケイを含め、つるんでいた仲間たちは世界優数の大都会Nシティでやりたい放題悪事を働いて育った。銃は簡単に手に入った。漂流者としてやって来た人間が擬い物のモデルガンや空気銃の類を改造し、殺傷能力のある銃として安価で売り捌く。それを同じく漂流者のガキ共が手に入れる。あとは想像通りだ。  ある事をきっかけにその頃からケイも銃を手に入れ、コツコツと腕を磨いていった。幸い不良品の改造銃が暴発して指や手首を失くさずこれたのは運が良かった。仲間の何人かは命を落とした者さえいたのだから……。  ケイの母がまだ生きていた頃、シティの裏社会では既にケイの噂は知れ渡っていた。名前こそ出ないものの「東洋人の小娘で凄腕の殺し屋がいるらしい」と。実際、そういった噂が広まっている頃、シティの中でもケイの仕事(殺し屋としての)ぶりはトップクラスだった。  ケイに仕事を依頼してくるのは裏社会の連中で、ギャング同士の抗争や派閥争いのマフィア崩れ達が敵のトップを()るためにケイを雇うのだ。ケイは当初、仲間達から安物の改造銃を手に入れそれを使っていたが、仕事の依頼料で本物の銃を手に入れる。それが愛銃のコルトガバメントM1911だった。  安物の改造銃もそれなりに重かったが、なにしろ本物は重さが違っていた。そして、暴発しないという安心感からかケイのガンさばきは上達した。それまでは安物の改造銃のリボルバーだったが、一人の息の根を止めるために六発の弾倉をフルに使っていた。だが、ガバメントを手に入れてからは一人の人間をあの世へ送るには一、二発あれば事足りてしまう、それ程の差が生じた。
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