Episode 3 故買屋サム

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Episode 3 故買屋サム

   ティーンエイジャーだったケイにとっては、当時、シティ警察署の巡査部長だったペドロは父親のような存在だった。シティにやって来た頃、まだ小学生くらいだったケイと不慣れな地で懸命に生きようとする母娘を親身になって面倒を見てくれたのもペドロだった。ケイがティーンエイジャーになった頃、悪い仲間と度々問題をお越して警察沙汰になることも増えて行ったが、ペドロの後ろ盾により大事にはならずに済んだのも事実だ。  そんなケイの行動を見かねたペドロは、当時自分が警察官とは違う裏の顔を持っている事をケイに打ち明ける。公には出来ない裏社会の面倒事を処理する仕事だ。警察署の刑事が担当する事件絡みを情報屋に金を払い主犯格の人間を割り出したり、時には潜入捜査ばりの仕事でマフィア崩れの連中に近づいたりする、ケイの母には内緒でそれを少しづつケイに手伝わせた。危険な仕事ではあったが、それはケイを母親のためにも自立させたかったからで、シティで生き抜く術を植え付けようとさせるための配慮だった。ペドロは主に生身での闘い方をケイに教えた。ペドロが通っていたボクシングジムにケイを誘い出したのもその頃からだ。  ケイは少しづつシティで生き抜く術を身につけて行く。仲間たちとつるんでケチな犯罪まがいの行動をするのも次第に減って行った。ペドロの持って来る仕事が学校の課題をこなしてるようで楽しかったからだ。母親が病に倒れこの世を去った時、ケイは既に誰にも頼らずシティで生きて行けるまでに成長した。  ペドロとは別にケイに銃の取り扱いや様々な場面による相手との銃撃戦を想定して教えてくれたのがH地区にある『Sam's Shop. Place of Angels(サムの店・天使たちの場所)』の店主、サムだ。裏で故買屋の商売をしているサムは謎が多い中年の黒人だ。裏社会にも精通しているのだが、ケイは今でも彼の過去については知らないし、敢えて聞くようなマネはしない。 「……白バイ警官?」  ケイが店の飲料用冷蔵ボックスの中からダイエットコークの缶を持って来てサムが座るカウンター前に小銭を置いた。その場でプルタブを引くと、プシュッと炭酸がはじける音がした。ケイはゴクリ、ゴクリと飲みながら頷く。 「偽物だね、あれは。私の感」 「ペドロの旦那に聞けばわかるだろうよ」 「ああ、まあそうだけど、なんかな~偉くなってからあそこにも入りづらくなってさ」 「で、渡されたメモってのは?」 「これ、電話番号だろ?」  サムは老眼鏡を頭から下ろしてケイが差し出した紙片を手にした。サムの表情がにわかに曇った。 「……ケイ、二〜三日時間をくれ。ちょっと調べてみる」 「良いけど……何か心当たりが?」 「まあな、ちょっと気になる」  サムはそう言って自分のポロシャツの胸ポケットに紙片を仕舞い込んだ。
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