Episode 4 一級品の殺し屋

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Episode 4 一級品の殺し屋

   シティ内にあるホテルの中でも一、二にあたる高級ホテルのカウンターBAR。約一年前にペドロがシティ警察署長に就任した際にこのホテルで就任パーティーが開かれ、その最中に前シティ市長がケイの手により暗殺されたホテル。  BARのカウンター席に座るブロンドの美女はマルガリータをゆっくり味わっていた。デジタルPADの資料を人差し指でスワイプしながらざっと目を通したその女性は隣に座るスーツ姿の男の方へPADを返した。   「前シティ警察署長、同じく前シティ市長、そして"kill the king"の首領を葬って集団を壊滅させた女……経歴は申し分ないわよね」 「ハイ、銃の腕も飛び抜けています、一瞬の判断や洞察力も見事でした。肝を冷やしましたよ」  あの白バイ警官の男だ。 「噂以上でしたね、あんな小娘がいったいこのシティでどうやって腕を磨いて来たのか」 「師匠の検討はだいたいつくわ」  デジタル端末機に着信があり、カウンターに置いた端末がブルブルと動いた。ブロンドの女は端末機を一瞥する。男が端末を取り耳にあてた。 「ハイ」 「そこにいるんだろ? コリーに代わってくれ」 「どこでこの番号を?」 「良いからコリーに代われ!」  男はブロンドの女に目を配る。コリーと呼ばれたその女は男から端末を受け取った。 「ちょうどあなたの話しをしてたところよ、タイミング良いわね、サム。元気にしてた?」 「……オマエ、ケイに目をつけたみたいだが、あの娘はやめておけ」  故買屋のサム……。声は落ち着いているが凄みが感じられた。 「あら、随分肩入れするのね。あなたらしくないわ」 「そんなんじゃない、馴染み客なだけだ」 「それだけ? あなたが育てあげた一級品の殺人マシンだから心配なんじゃないの?」 「ちょっと銃の扱いを教えただけだ、それ以上でも以下でもない」 「伝説と呼ばれたあなたが教え込んだ弟子が潰されるのが怖いとか?」  一瞬の間が空いた。 「何をやらせるつもりなんだ? それだけでも教えてくれ」 「フッ……いいわ。一週間後にシティ国際空港へメキシコで逮捕監禁されていたある米国人が移送されて来る。移送先はシティを越えた隣のNJ区域にある刑務所よ」 「……そいつを襲うのか? 仲間か?」 「そう、ただの移送だけならこちらで何とかなるのだけれど、狙ってるのは私たちだけじゃないのよ。旧メキシカンカルテルが絡んでいるからその残党たちがうるさくてね、アチラさんも血眼になって狙ってるってわけ。こちらとしてはスムーズに事に及びたいから、集るハエ共をあの娘にね、簡単でしょ?」  ブロンドの女、コリーがそこまで話し終えたところで二人の人影がBARに入って来た。コリーの隣にいた男が気づいてスーツの懐に手を入れるより早く、ケイのベレッタの銃口が既に向けられていた。ケイの前を歩く故買屋のサムは、さっきまで会話していた携帯端末を耳元から解放した。コリーは端末をカウンターのテーブルに放り投げる。苦笑している。サムはコリーの右側のスツールにゆっくり腰を下ろした。ケイは男の視線からベレッタの銃口を外さないで立っている。男は何も出来ず、懐から手も出せず固まっている。バーテンダーの男もそれは同じだった。 「スコッチを頼む、二人の分も儂が払う」 「あら、奢ってくれるの? それじゃ再会を祝して乾杯しましょう、サム」 「まだ引き請けると決めたわけじゃない、決めるのはこの娘だ」  サムはケイの方へ顎をしゃくった。ケイがニヤリと笑って言った。 「そんじゃ詳しく聞こうか」
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