Episode 4 City ​​Gang Shuffle

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Episode 4 City ​​Gang Shuffle

 シティの警察署の巡査部長、ペドロ。裏ではケイや、ケイみたいな漂流者たちに警察では手に負えないような厄介ごと、又は手が足りないような案件を持って来て仕事として依頼し報酬を払う。 「確かに電脳 が警察署と利権絡みって噂は耳にしてる、多分事実だろう、だがそいつはあくまで上層部の連中たちの話しで俺らみたいな下っ端の身分には関係ないぜ、一セントも入って来やしない、本当だ!」  ペドロの言葉に嘘は無さそうだ、ケイはそう感じた。元来、シティに来てからペドロには確かに世話になって来た。まだ母親が生きていた頃、ペドロは駆け出しの一介の巡査だった、にも関わらず、母親に仕事の口を持って来たり、幼いケイが警察署に顔を出すとメシや菓子を振る舞ってくれた。ケイにとっては信じられる少ない仲間、親類とも呼べる存在の一人だ。 「わかった、わかった、信じるよ」  そう言ってケイは銃を懐に収めた。勿論、最初から撃つ気なんて無く、ケイ特有のハッタリだ。 「勘弁しろよ、ケイ。心臓に悪いぜ」 「悪かったよ、ところでその電脳ドラッグが原因で事件や事故が頻繁に起きてるらしいじゃない、仕事になりそうな案件だってあるんだろ? 私にも回してよ」 「さすがに上層部はそれ絡みの案件を下まで降ろさねえよ、上層部の奴らは奴らでお前みたいな仕事屋を独自に抱えているからな。だいたい電脳ドラッグ絡みはネットに精通してないお前には無理な話しだろ?」 「ああ、まあ、それは言えてるか……」  人間の脳を電脳化する時代。電脳化とは、即ち脳の代わりに電脳を移植し、さまざまな電気機器によって脳にアクセスが可能だ。だから別の人間が他人の電脳を操ることも可能で、そのため電脳者は自身の電脳のセキュリティを強化する。パスワードはもちろん生体認証システムなどで外部からの侵入(ハッキング)には非常に厳格である。  例えばシティでも一部の金持ちや資産家の類は電脳化している人間も多い。電脳がいくら普及した時代とは言えど、ここシティでも電脳化しているのは大企業に勤めている者や資産家くらいのいわゆる高収入を得ている人間だけだ。一般人にはまだまだ高値の華である。  ただ、電脳化出来ない人間のためにあるのが、電脳マシンだ。コンピューターに専用ソフトをインストールし、VRヘッドギアがあれば仮想電脳空間を擬似体験可能で電脳ドラッグも有効だ。一式揃えるのもゲーム機を買う感覚で容易で安価なため、むしろ電脳ドラッグを買う人間の比率は電脳マシン派の方が圧倒的に多い。電脳ドラッグには直接飲むカプセル錠と電脳化された人間にだけ対応可能な差し込み型のプラグ状の物がある。当然プラグ状の物は高価だ。  電脳化すると脳死という概念がない。身体自体を義体化すれば電脳を新しい義体に移植することによって永遠、即ち不老不死が可能となる。そのため、電脳化した人間はデバイスなどのメンテナンスも周期的に行っている。 「その電脳ドラッグ絡みだがな、充分用心しろよ」 「と言うのは?」 「アニエスって言う裏の世界じゃ有名な女がいる。ネット界隈じゃ一流のハッカーだ、彼女が出て来ると些かやっかいだ」  Nシティの中心街、クラブ〈SEX UP〉。一年中パーティ騒ぎの快楽と饗宴の夜の無法地帯。ドラッグ売買、売春、密輸密売の違法取引き、ありとあらゆる犯罪行為が横行する。 「ほお、例の小娘がな……待ってりゃ向こうからやって来るなら手間も省けるってもんだ」と、黒人リーダーのビリーD。すっかりくつろいでいるところが盲点だった。入口付近から悲鳴と銃声が聞こえて来た。フロアにいた客が騒ぎ出した。 「なんだ? 何があった?」  ビリーDが立ち上がった時にはフロアにいた客が両側に分かれて、ビリーDの視界が広がった。向こうから歩いて来るのは銃口をビリーDに向けたケイだった。咄嗟に取り巻きのギャングたちが銃を抜くより早く、ケイのガバメントが電光石火のごとく火を吹き、取り巻きたちに鉛玉をぶち込んで行く。バタバタと倒れ込む仲間たちを見て、ビリーDも素早く銃を取り出すもケイはテーブルに飛び乗り彼の銃を蹴飛ばした。次の瞬間にはビリーDの鼻先に銃を押しつけていた。ビビった他のメンバーたちが慌てふためき後ずさりした。 「なかなか度胸があるじゃねえか、ネエちゃん、あちこちでギャング共を潰して回ってるってのはオマエか?」 「へえ、私も結構有名みたいだね」 「で、ここには何の用事だ? 潰しに来たって魂胆なら諦めな」 「惚けんなよ、私の事、探してたんだろ? こっちから出向いてやったんだよ」 「オレがか? テメェみたいな小娘に用なんかねえよ」 「フン、まあいいや、ちっと別件の用で聞きたい事があるんだわ」 「別件? ヤクでも欲しいのかい? まあ、ことと次第によっちゃ売ってやらなくもないぜ」 「電脳ドラッグも扱ってるってか?」  〈電脳ドラッグ〉というワードにビリーDの顔色が変わった。  「勿論、なんでもござれさ。金さえあればだいたいのブツは手に入る、ただし、電脳ドラッグは高いぜ」 「その電脳ドラッグが原因でシティじゃ最近面倒ごとが多くなってるってのを小耳に挟んだんだけどさ、何か知らない?」  ビリーDはそれを聞いて笑い出した。 「ネエちゃん、ドラッグを買った奴のその後なんて売人がいちいち監視でもしてると思ってんのか?」 「確かにそりゃそうだ、ただ、あんたなら何か知ってるかなと思ったんだよ」 「生憎だが無駄足だぜ」 「そうみたいだね……じゃあさ、アニエスって女の事、何か知らない?」  アニエスという名前を聞いたビリーDはまたもや険しい表情をした。電脳ドラッグより響く言葉らしい。 「……どこでその名前を知った?」 「ははあん、どうやら知ってるとみたね。どうすれば会える?」 「会えるかだと? ネエちゃん、あんた気は確かか?」 「そいつに会わない事には始まらないのさ、どうなんだよ、会えるのか会えないのか?」 「知ってたとしても御免だね、関わりたくはねえからな」 「ああそうかい、もう良い、他を当たるわ」  ケイが出て行こうとしたが、ビリーDの手下が行く手を阻んだ。 「待ちな、そっちから勝手に押し込んで来て簡単に帰れると思ってんのか?」  ケイはその言葉を聞いた瞬間、振り返りざまにビリーDの左足の太腿にガバメントの45ACP弾を一発ぶち込んだ。その場で派手に倒れ込み悶絶しながら太腿を手で押さえるビリーD、手下共が呆気に取られる。 「グワッ、テメェ何しやがる!」 「あんたらと遊んでる暇はないんだ、悪いね」  ケイはそう言うと、唖然と立ち尽くしているビリーDの手下共を突き飛ばしながら店から出て行った。 「アニエスだと? あの小娘、放おっておいてもくたばる口だぜ」  ビリーDはケイの後ろ姿を見ながら吐き捨てるように呟いた。
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