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「・・・伊織に渡したい物があるんだ。」
凌はジャケットの内ポケットから、ビロードの四角い箱を取り出した。
「今からすごくベタなことしていい?」
凌はそう言うと立膝を付き、その四角い箱をパカッと開けて私に差し出した。
「田山伊織さん。俺と結婚してください。一生俺のそばで笑っていてください。君なしの人生はもう考えられません。お願いします。」
凌の真剣な眼差しが私の視線とぶつかった。
私はその箱の中で輝く指輪をみつめ、涙が溢れた。
凌と会えなかった辛い一年間を思い出し、こんな幸せな瞬間が訪れるなんて信じられない気持ちでいっぱいになった。
「凌・・・ありがとう。私だってもう凌のいない人生なんて生きていけないよ。これからもずっとずっと凌が好きです。」
私は心を込めて、そう凌に告げた。
「・・・よかったぁ。緊張した。」
ホッと安心したような飾らない表情の凌を見て、ああ私はこの人の全てが好きだなあと改めて思った。
「コユキもこの家、気に入るかな?」
「気に入るよ、きっと。そうだ!そろそろコユキにもお友達を作ってあげない?」
私がそう提案すると凌も頷いた。
「そうだな。今度、ペットショップへ行ってみようか。」
「うん。」
「ゆくゆくは・・・子供の事も考えような。」
「・・・でも私、いいお母さんになれるかな。」
私にはママの血が流れている。
そんな私の不安を吹き飛ばすように、凌が私の手を握った。
「いいお母さんになんてなろうとしなくていいよ。ただ愛してあげよう。俺達が欲しかったものをあげればいいんだ。」
「・・・うん!そうだね。きっとゆりさんも喜んでくれる。」
私達の元へ来てくれる未来の子供に、私がして欲しかった全てを与えてあげよう、そう思った。
これから私と凌の前には悲しいことや困難なことも訪れるだろう。
それでもふたりでならきっと乗り越えられる。
孤独だった私と凌を引き合わせてくれた、粉雪舞う白い世界は、いつまでも私達を見守ってくれるに違いない・・・。
fin
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