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革ジャンを着た夢追い人
「いかかですかぁ!」
「よろしくお願いしまぁす!」
「お身体、お疲れじゃありませんかぁ!」
靖国通り沿いの道では、老若男女様々な人達が通り過ぎる。
スーツを着たサラリーマン、観光に来ている外国人、大学生風の若いカップル、ゴスロリファッションを身に着けた女の子、近くに大手お笑い事務所の本社があるからかテレビでよく見る芸人が通ることもある。
しかしそのほとんどの人は、私の姿など一瞥もせずに通り過ぎていく。
ここ歌舞伎町ではどんなに奇抜な恰好をしていても、それが当たり前のように受け入れられる。
そういう意味ではこの街は、どんな人種にも寛容と言えるのかもしれない。
歌舞伎町にある有名ホストクラブの大きな看板をひっさげた宣伝カーが、道路を走り抜けていく。
初めて見た時は物珍しさでずっと眺めていたけれど、最近ではもう見慣れてしまった。
そんなカオスな街中、道端でチラシを配っている私などは、電柱やポスターと同じくらい、いやそれよりも目に留まらない空気みたいな存在なのだ。
それでも、ごくほんのたまに、幾人かの人達がチラシを受け取ってくれる。
30分配って、3人にチラシを渡せたなら御の字だ。
でも今日は巡り合わせが悪いのか、誰一人としてチラシを受け取ってはくれなかった。
ブランドの服で着飾った若い女性が、私をチラリと見て蔑んだ笑みを浮かべた。
冷たい風が私の頬を撫で、セミロングの黒髪が乱れて、ほっぺたが赤くなっているのが自分でもわかった。
チラリチラリと粉雪が降り、風に舞っていた。
私は、その小さな雪の結晶をそっと手の平に乗せた。
雪は風に吹き飛ばされ、またどこかへと運ばれていった。
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