革ジャンを着た夢追い人

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店内に入り、受付に立つ店長に少しだけ誇らしげに声を掛けた。 「田山、指名入りました!」 「おう。今日は絶好調だな。」 私は物珍しさからかキョロキョロと店内を見回している男を受付へ促した。 「靴は脱いで頂いてスリッパへお履き替え下さい。」 「了解っす。」 男はおどけたように敬礼して笑って見せた。 少したれ目な目元には笑いじわがあり、右の首筋にはホクロが2つあった。 男は新品の黒地と白のスニーカーを脱ぐとそれを丁寧に揃えて置き、緑色の簡易スリッパへ履き替えた。 「お客様、今日はどのコースになさいますか?ボディマッサージ、足裏マッサージあとはヘッドマッサージなどもございますが。」 「それ全部やってもらえるコースってある?」 「ございますよ。」 私はメニュー表を指さした。 「桜コースですと、ボディ60分、足裏60分、ヘッド15分がセットになって7500円になります。」 「じゃあそれでヨロシク。」 男はそう即答した。 「お着替えはどうなさいますか?上下で210円ですが。」 「着替えはいいや。」 「ポイントカードはお作りしますか?1000円ごとに1ポイント貯まりまして全部貯まると一回施術が無料になります。」 「作ってくれる?」 「ではお名前をご記入ください。」 男はボールペンで自分のフルネームを、達筆な文字で記入した。 ポイントカードの氏名欄には「影山凌」と書かれていた。 私は影山さんが料金を支払うのを待って、施術するベッドへ案内した。 一番奥のベッドが空いていたのでそこを使うことにして、ベッドの下からカゴを取り出した。 「こちらにお荷物をお入れ下さい。」 「どうも。」 影山さんは肩にかけていた黒いショルダーバッグと脱いだ革ジャンをカゴの中に入れた。 「ではこちらのベッドでうつぶせになって頂けますか?」 「ハァイ。」 影山さんは子供のように素直な返事をした。 ベッドはベージュ色のシーツに焦げ茶のタオルでベッドメイキングされている。 背の高い影山さんの身体は、ベッドぎりぎりになんとか収まった。 「本日は田山が担当致します。よろしくお願いします!」 「こちらこそヨロシクね。」 軽く上半身を軽擦し、肩にある僧帽筋を親指で指圧した。 思ったより固い。 肩をほぐす前に、その周りにある筋肉をほぐし、つぼを押していくことにした。 肩の凝りは腕の付け根や首の付け根をほぐすのが効果的だ。 後頭と首のあたりにある天柱や風池という頭痛にも効くというツボを押す。 腕の付け根にある三角筋、上腕二頭筋を掴んで揉みほぐし、肘、そして親指と人差し指の間にある合谷というツボを押さえる。 そして背面に移り、肩甲骨、脊柱の際を指圧し、もみほぐしていく。 肩こりがひどい。きっと目の疲れや頭痛もあるに違いない。 影山さんは押された場所が痛むのか、ときたま「痛っ!」と小さく声をあげた。
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