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その後染井はTシャツも脱げるようになった。
「また着てるのかそれ」
「だってお気に入りなんだもん」
「こりねぇヤツ」
相変わらず例のTシャツを着こなす染井だったが、もうTシャツの色は変化しない。
彼が着ているのはただの漂白された白いTシャツだった。
不思議なことに、あの日皆にカラフルにされたTシャツは染井の自我が戻ると共に色が消えてしまった。
着ていた染井の方に色という感情が宿ったのだろうか。
(俺たちの優しさが染井の心を染め上げた……なんて)
しかし染井には若干変化があった。
それは染井が情緒豊かになったところだ。
時々急に物思いにふけたり黄昏たり妙に感傷的になったりする。
美術部の連中がマゼンタやコバルトブルー、カーマインとやたら配色にこだわった影響だ。
「お、紅葉きれい」
道沿いに揺れる銀杏並木の葉を拾い染井は言った。
「季節と共に色も染まる。俺たちも若く青い色からいずれ酸いも甘いも噛み締めた渋い色へと染まっていくのだろうか……良い」
何かとポエミーな染井。
叙情的な詩を詠む癖のついた彼に俺は「はいはい」と適当に返事をした。
「そうだ町田。今度紅葉狩りに行かないか」
「もう色が変わる系のはちょっと……」
黄色に染まる秋の通学路で。
俺は肩に落ちた黄色い銀杏の葉をそっとはらった。
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