染まりやすい君へ

3/6

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 四時限目の書道の時間。  染井の隣の席の男子生徒が墨汁を盛大にひっくり返した。  隣の染井は盛大に墨汁を浴び、彼の着たTシャツは余白なく漆黒に染められた。 「テメェェェェッ!!」 「ひぃぃいい!」  途端に染井の治安が悪くなった。 「どうしてくれんじゃいワレ!! Tシャツ真っ黒じゃねぇかァ! どう落とし前つけてくれんじゃあああ!?」 「ひょええごめんよぉぉ……」  どうやら漆黒の色はドス黒い気持ちの時らしい。 (ていうか墨汁かかってから態度急変しなかったかこいつ?)  もはや墨汁の黒か感情の黒か区別がつかなかった。 「ウオオオオッ!」 「ひいぃぃ」  黒いTシャツの染井は荒ぶり暴走状態になった。 「ちょ、染井、落ち着け」 「うがあああ」  からまれる男子生徒を他のクラスメイトに託し、俺はガラの悪くなった染井を廊下へ引っ張り出した。  水道の前に彼を立たせる。 「落ち着け染井。こんなの汚れを落とせば綺麗になるって」 「うがががが!」  漂白剤があったので水道に置かれたバケツに漂白剤を入れ漂白液を作る。 「あ、そうだ。脱げないんだっけ」  少々手荒だが。  俺は染井に向けてバケツの中身を振りかけた。  バッシャーーンッ!  漂白液でビシャビシャに濡れた染井はピタリと大人しくなった。 「……」 「染井?」  染井は真顔だった。  簡単な顔文字のように染井の顔は点と線のようなパーツになっている。 「……」  真っ白になったTシャツと共に染井も何かが抜け落ちたような顔をしていた。  ていうか。  表情から大切なものが抜け落ちたようだった。 「……」 「染井?」 「ウン」 「だ、大丈夫か」 「ダイジョウブダヨ」  絶対大丈夫じゃない。 『お昼の放送の時間でーす』  軽快なチャイムと音楽が上のスピーカーから降ってきた。 「え!? もうお昼?」  真顔の染井と俺が無言の対峙が続き、いつしか四時限目は終わっていたらしい。  昼食時に流れるお昼の放送委員ののんびりした声が校内に響き渡る。 『今日の放送はちょっと遅めの秋の怖~い怪談です。皆は今、巷で流行りのこんな噂知ってますか? 持ち主を操りコントロールする“寄生型エイリアン”についてお届けします』
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加