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午後一番の授業は美術だった。
イーゼルに立てられたキャンバス前に真無言で座っている染井。
キャンバスも染井も真っ白だった。
「あれ生きてるのか」
エイリアンと共に感情ごと漂白されてしまった彼を見て不安に呟く者あり。
「かわいそう染井くん……」
憐憫の目を向けるものあり(ごめんなさいだがそもそも悪いのはエイリアンだ)。
もはやどちらがデッサン人形かわからないくらい動かなくなった友人を見て切ない気持ちになった。
「つーかエイリアンやっつけたんでしょ。なら万々歳じゃん」
どっかの空気読めないクラスメイトの美術部員の男子生徒が言った。
「これ見て言えるか? エイリアンと共に染井の感情まで消失しちまったんだぜ」
「それ思ったんだけどさー」
美術部員はにゅにゅっと自身のパレットに絵の具のチューブを絞り出す。
筆にとり、そのまま真っ白な染井のTシャツにぺたりと塗る。
「なにしてんの!?」
「いや、だったらもう一度色を追加してやればいいかと」
「はあ?」
「だから俺たちで染井に感情吹き込んでやればいいじゃん。こうやって、いろんな絵の具でTシャツを染めてやるんだよ」
桃色の絵の具をぺとりと真っ白なTシャツに一閃。
ぱあっ。
染井の表情が変わった。
「あ! なんか気色悪い表情になった!」
「恍惚のサーモンピンクってところだな」
「すごい! 染井に感情が芽生えた」
俺たちのやり取りを見るとクラスの生徒たちがどわどわと絵の具のついた筆を持って染井に集まった。
「俺も塗る! 俺も染井に感情吹き込みたい」
「超レインボーにしてやろうぜ」
「私も染井に謙虚の心を染みこませたい」
「美術部員の本気……見せたげるわ」
Tシャツはみるみるカラフルになっていった。
染井の表情は数秒おきに七変化(百変化?)を起こし、最後にカッと目を見開くと、
「あれ? 俺はいったい」
『染井ーっ!!』
元の侵略される前の友人に戻ったのだった。
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