染まりやすい君へ

1/6

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 ある秋の日の通学路で遭遇した友人がTシャツ姿で登校していたので声をかけた。 「よお染井(そめい)。どうしたんだそのTシャツ」  俺に声をかけられた高校の友人の染井は振り返り、にっこり笑って片手を挙げた。 「あ、町田(まちだ)。おはよう。いいだろこれ」  見せびらかすのは着ているTシャツ。 「いいもなにも、今秋だろ。しかも十一月。よく半袖Tシャツ一枚で登校するな」 「ゴミ捨て場に捨ててあったからさ。拾って着るしかないじゃん」 「いや、ナチュラルに捨てられてたもの着るなよ。なに考えてんのお前」 「ほら俺サッカー部だろ。部活後のあと汗ビシャビシャじゃん。冷えて風邪ひくの嫌だし、とにかく着替えたくて、そこでタイムリーに帰り道のゴミ捨て場で見つけたわけじゃん」 「知らねぇよ」  さも自然の流れのようにゴミ捨て場に投棄されたブツを己のものにする友人に俺は戦慄した。 「ラッキーってその場で拾ったTシャツに着替えて家に帰ってそのまま疲れて部屋のベッドで寝落ちしちゃってさ。泥のようにぐっすりと」  それこそ風邪ひくだろというツッコミを入れると話が滞るのでツッコまないとする。 「そんでここからがビックリなんだよ!」 「何だよ」 「じゃじゃーん」  染井が自分の着ているTシャツを見せびらかすようにつまんだ。 「? べつにただの青いTシャツだろ」 「聞いて驚け。このTシャツ色が変わるんだよ! 着てる間に勝手に。拾った時は茶色だったんだ。ところが朝起きたら赤色に変わってた! そんで学校行く途中お前と会ってまた青色にまた変わったんだ! 凄くないか!?」 「んなバカな」  色が勝手にコロコロ変わる衣服なんて聞いたことがない。  染井はドヤ顔を浮かべながらさらに続ける。 「しかもある事に気づいた。このTシャツは着た人の気分によって変化する。赤色は怒り、青色は悲しみ、喜びは黄色みたいに。実際今朝おかんとケンカしてた時Tシャツの色が赤かった。Tシャツが俺の気持ちの色に染まってくれるんだ」 「気分によって色が? そんな話信じられるかよ」 「信じろよ! 面白いからお前に一番に話してやったのに!」  怒る染井の服を見ると俺は驚いた。  彼の着たTシャツはいつの間にか朱色になっていた。朱色のあたりやや怒りっぽい。 「すげぇ。マジで気持ちとシンクロしてるのか」 「これで信じただろ?」 「目の前で見たらね。信じるよ」 「よし」  怒りの静まった染井のTシャツは再び青色に戻っていた。 「しかし、なんでまた青色に戻るんだ」 「……」  染井、俺といる時ブルーな気持ちだったのか。  俺は地味に傷ついた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加