【CrazieR】 3.どノーマルな肉食

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 起き抜けの、やや掠れてはいるが聞き慣れた声が上から降ってきた。  ぐ、と顔を上げたハヤセの瞳に映ったのは、 「……誰」  無造作にかき上げられた前髪がほんの少しかかった額。無精髭が似合う、どこか男くささの香る野生的なイケメンがタバコを咥えて上半裸でハヤセを見下ろしていた。 「お前、雇い主の顔、忘れたの」  声は、よく知っている。 「……荻野?」 「……他の誰だよ。起こしに来たんだろ」  そうでした。  何だよ、こんなイケメンだったのか。  いや、そんなことはどうでも良くて。 「何だよ。……たっ!!」  べし!と持っていたファイルを叩きつけるように荻野の胸に押しつけ、 「とっとと行ってこい!」  くるりと目の前の男に背を向けて、足音も荒くとっとと荻野の自宅を出た。 「何だよ」  図面を持ったまま、半眼で自分を見上げてきたハヤセに、荻野が引きぎみで言った。 「……思い出したら、腹が立ってきた」 「何を」  荻野、一歩後退。無意識に出入り口の場所を確認し。 「いつだか、大事な訴訟があるから起こしに来いって言われて仕方なく行ったら、女がいた」 「ああ……」  がり。と面倒そうに荻野は前髪をかき上げた。  整った顔が露わになり、ハヤセがさらに目を細めた。
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