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「どー考えても、宣伝が足りねーだろ」
開店当日から閑古鳥。
とりあえず開店は18時、現在20時まで客はゼロ。
「花の一つでも贈って寄越すやついないのかよ」
広くない店の入り口をくぐると、店の中はまるで外国の部屋だ。
カウンターがなければ、のんびりとくつろげそうなただただセンスの良い空間。
こんなところで、好きな料理が食べられるなんて最高じゃないか。
なんて荻野は思うのだが。
まあ、思うのは勝手。
と。
静かにドアが開き、
「あ、香」
「こんばんは。いい雰囲気ね」
ツヤツヤ黒髪ボブ、小柄でやや目元がキツい印象の、完璧メイクで年齢は分からないが、いかにもできそうな女性の松織が花束を持って入ってきた。
「自分で飾りたいって言うから、持ってきたわよ」
「ありがと」
「お前、断ったわけ?」
「あんなのカッコ悪い」
「…………」
相変わらずね、と松織は笑って荻野の前に立った。
「こちらがハヤセのパートナー?」
「ん。荻野。荻野、こっちは」
「松織香です。ハヤセが現役諜報員の時に、向こうで一緒に仕事をしたことがあって。結構な腐れ縁ね」
「それなりにWin-Win」
「かしら」
ふふ。
ガシャン、バタバタバタ!
荻野が顔を上げると、ドヤドヤと数人の男性が入ってきた。
「ボスー!お待たせ――――!こんばんは――――っ!うっわ、かっこいい店だなあ」
「カレン、うるさい」
「ほら大智、いいから。こら止まるな、奥入れ奥。久遠、押すなって」
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