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これが、転生?
篠宮櫂、25歳、大工歴10年、趣味一人キャンプ、彼女無し、、。
彼女なんか、出来っこないだろ?学歴中卒なんだから。
なまじ、名前の字面がカッコ良いから、興味を持っても
中卒の大工だって知ると、す~っと引いて行っちゃうんだよ。
両親は、俺が5歳の時に、交通事故で死んじゃって
引き取ってくれた遠い親戚の家じゃ、厄介者扱いで、虐められたな~
そこの親父が、俺が中学を卒業するのを待っていて
さっさと知り合いの大工の家に、弟子として放り込んだんだ。
何と言っても、10年間、育ててくれた恩が有るから、逆らえなくてさ。
大工の弟子としての修行も、辛かったな~
親方は、俺が、へまをすると、初めに殴ってから、怒りだすんだから。
辛抱して、やっと弟子の年季が明け、一年間、お礼奉公をして
独り立ちしたんだけど、それを待っていた、あの親戚の
ごうつく張り親父が、俺の給料を半分も、持って行きやがる。
いくら、大工の手間賃が良いからって、良いのには、訳が有るんだぞ。
会社に入っている訳じゃ無いから、病気や怪我をした時の為に
自分で、生命保険を掛け、遠い所の仕事と、道具を積むから、車も居る。
車の経費って、馬鹿にならないんだぞ、ガソリン代や、保険金、車検等々
車を持ってたら、分かるよな~。
住んでいるのは、古いアパートだけど、家賃や、光熱費、駐車代等々
それに、道具だって、使っているうちに、傷んで来て買い替えが必要になるが
これが、結構高くてな~安物だと、いい仕事は出来ないし、頭が痛かったよ
切り詰める所と言えば、服か食事しか無かった。
だから、俺は、いっつもダサい格好で、ひょろひょろだった。
仕事先で、食事をご馳走になる時が有ったが、その時は、本当に嬉しかった。
パンの耳や、おから料理ばかりの俺には、食事を作ってくれた小母ちゃんが
天使に見えたものだ、その小母ちゃんが、鶏のから揚げや、天婦羅を
「夜食にお食べよ」と、持たせてくれた時は、涙が出そうになった。
こんな貧乏が染みついた、俺には、彼女どころか、友達も居なかった。
友達付き合いすれば、どうしても金が掛かる。
俺には、そんな余分な金は無かったからだ。
そんな俺にも、一つの楽しみが出来た、キャンプだ。
音だらけの仕事を離れ、静かな山の中や川の傍で、燃える火を見る。
それだけで、癒される、不思議だった。
道具も、安い物を一つ一つ買い足して、食事を作り、テント内で寝る。
だんだん、キャンプらしくなって来た。
その朝も、一晩過ごした後のテントや、寝袋を畳み
道具を入れたリュックを背負って、テントを張っていた先の崖に行った。
高い崖の下は、雲海が広がり、はるか向こうの山から、朝日が、顔を出す。
辺りに、朝の光が広がり、一気に暖かくなる。
櫂は、朝日に向かって手を合わせ、今日も病気や怪我が無い様にと、願った。
病気や怪我をすれば、病院代もかかり、仕事は休むので、手間賃が減る。
櫂にとって、病気や怪我が、一番怖い存在だった。
その時、後ろに違和感を覚え、振り返った櫂の目に、真黒な塊が見えた。
熊だった、熊は、櫂に突進して来て、ドンッと背中を押した。
「うわぁ~っ」櫂は、崖から落ちて行きながら
「俺の人生、ここで終わりか、良い事、何も無かったな~」
と、思った所で、意識が無くなった。
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