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「楽しかったのに、ツイてないな。」  駅構内のカフェで外の雨を見ながら、保が言った。 「あら、おかげでゆっくりお話できるじゃない。」  向かいの席で江利がコーヒーをすすりながら言うと、保はその白い手を横目で見た。 「江利さんは、わるい人だな。」 「え? なんの話?」  江利が長い睫毛ーーもちろん付け睫毛だーーを上げて、保を見た。 「わかってるくせに。  江利さんがわかってて、僕もわかってるのに。……なんでかな。」 「だから、なんの話?」  江利はあくまでもあっけらかんとしている。  保はじれたように言った。 「……江利さんてさ、会ったその日に相手の部屋に行ったことある?」 「うん、あるよ。」  即答されて、保はちょっと拍子抜けした顔になった。  江利はかまわず続けた。 「私、社交的でしょ?  誰とでも、わりとすぐに仲良くなるのよね。」 「へえ……。」  保の目にまた色が宿った。  それに気づいているのか、いないのか、江利は話を続ける。 「たとえば……」 「たとえば?」 「大奈とか。  夜通ししゃべって、スナック菓子7袋も空けちゃった。」  江利は思い出し笑いをした。 「ふうん。」  保はもうそんな話は聞いていない。  江利の笑顔を……いや、笑う唇の奥を見ていた。  ふと、目が合った。  江利が言った。 「ゲームオーバー!」 「え?」  江利の、クラッカーを鳴らす仕草に保は戸惑った。  江利は外を見て言った。 「雨も止んだわ。  帰りましょう。」  ふり向いた江利にクスッと笑われて、保は遊ばれたことに気づいた。
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