私の運命に出会うまで。

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私の運命に出会うまで。

生まれて17年。 私、羽衣が見える世界はカラフルに、鮮やかに色付いていた。 …いや、暗喩じゃなくて、マジで。 気付いたのは幼稚園でお絵描きしていた時。 ママの似顔絵を描きましょうとの先生の言葉に私が緑色のクレヨンを構えたことで気付いた。 周りの子は肌色で顔を塗るのに対して私は母の顔を緑で塗ったのだ。 先生になんで緑で塗ったの?と聞かれてとっさに「可愛いから!」と応えた私は今思ってもグッジョブだ。 これも伯父と一緒に見たなんだか小難しアニメと伯父の熱のこもった解説のたまものだ。 つまり、私は不思議な力を持っていてそれを誤魔化す術を叩き込まれていたのだ。 今思うと伯父はなんてものを姪に見せていたのだと呆れる。 そこで発覚した実はみんな似たような色をしているという事実。 そして私は1人1人が違う色に見えるという特殊な力。 ませていた私がワクワクするのは必然だった。 それから数年が経ち、私は高校2年生になった。 人と違う力を持つことで人と馴染めずにいた…… なんてことはなく。 それはもう自他認めるポジティブとちゃっかりした性格で普通の生活を送っていた。 これも、お母さんとお父さんが頭の天辺から足の爪の先までお互いの色で染まっていたことが大きい。 というのも、好意があればその人の色に染まるというルールを見つけたからだ。だから、私には誰が誰を好きだというのが分かる。 もし、私のお母さんとお父さんがあの不倫しまくっている俳優の様に幾つもの色で染まってたらきっと人間不信に陥っていただろう。 そこは本当に仲のいい両親に感謝だ。いちゃいちゃは控えてほしいけど。 「おはよー。」挨拶をしながら教室の自分の席につく。 すると、待っていました!とばかりにクラスメイトの女の子が私の席の前に座りこっちを見た。 「ね、ね、実は告白をしようかと思っているんだけど脈ありかどうか見てほしいの!」 「おお、告白!どの人?」 「ちょうど今校庭を歩いている人!」 私は窓から下を見て両手を筒状にして望遠鏡を覗くようなポーズをとる。 「どれどれ~?」 その人は7割くらい相談してきた女の子の色に染まっていてあと3割は自分の色のままだった。 「お、脈ありだよ~。特に他に脈ありの子がいる様子はない。でも、ぞっこんっていうわけじゃないから押して押して押しまくったらいける!!」 「わー!ありがとー!!頑張るね!これ、お礼のクッキー!」 「やった~!これ、おいしいやつだ。」 嬉しそうにその子が席を離れると次は落ち込んだ男の子が座った。 「なあ…今日熱愛報道が出てたアイドルのあの子…マジ…?」 「好きなの?」 「そう、ファンなんだよ…。」 「先払い。」 片手を出すとチロルチョコ一個がコロンと乗せられた。 「まいど~。今日テレビでその写真見たけど、マジだね。でも…あ、聞く?」 「…聞く…。」 「あの子他にもう一人いるね。二股かもしくは…」 「うわー!もういい!もういいよ!…俺、今日駄目だぁ…。」 とぼとぼと席を離れる男の子。 「朝からお疲れ様。羽衣。」 「おはよ~。見てみて、クッキーとチロルチョコもらっちゃった。」 私の前の席の持ち主である友達の萌花が呆れたように声をかけてきた。 「にしても、よく当たるよねぇ…羽衣の占い。」 「占いじゃなくて私には不思議な力があるんですー。」 「はいはい。あ、実は最近気になる人が出来てさ…。」 そう言って萌花は私に一枚の写真を見せる。その写真の男の人は見るからにどす黒かった。 「…やめといたほうがいいよ。」 「…また!?なんで私の周りにはこんな人しか集まらないのよ…。」 「チロルチョコあげる。」 「これ、さっき貰ってたやつじゃない。」 萌花はいわゆるダメ男を引き寄せる天才だった。一度忠告をしてから事あるたびに私に意見を求めるようになり、いつの間にか仲良くなった。 「それにしても、羽衣は恋しないの?いつまで経っても他の人ばっかりで羽衣の話を聞かないんだけど。」 「だからぁ、運命の人を待ってるの!」 「えー?おこちゃまだなぁ。」 何色にも染まっていない私自身の色のピンクの腕を見る。 萌花の言葉通り私は今まで誰の色にも染まったことはない。 というのも、基本的に人は誰かに好意を寄せる生き物だからだ。 その色の範囲や期間は人それぞれでも私は今まで何色にも染まっていない人を見たことがない。 そして、それが分かるから誰かに好意を寄せている人を好きになることは無いのだ。 やっぱり両親のようにお互いがお互いだけを想っているのに憧れる。 一方、でもまあ、それはそれとしてやっぱり恋には憧れる。 最近は一周回って何色にも染まっていない幼稚園生の子を狙おうか、逆源氏物語を始めてやろうかと思ったりするもののドン引きされるのは目に見えているので大人しく誰にも話してはいない。 萌花と話しているうちに始業のチャイムが鳴り一日が始まった。 ただ、今日はいつもの日とは少し違った。 「えー。今日から転校生がこのクラスに来ます。色々教えてあげてください。」 その言葉と共に教室に入ってきたのは静かそうな男の子だった。 でも、その男の子を見た瞬間私の中の時間が止まった。男の子が自己紹介をしてるが、何も内容が入ってこない。 拍手が響く中、私は思わず立ち上がる。 「一目惚れしました!!私と付き合ってください!!」 クラスメイトがぎょっとこっちを見るが、私は何色にも染まっていない真っ白なキャンバスの様な肌を持つ彼しか見えていないのだった。 彼の名前は尋というらしい。 自己紹介を聞き逃した私に萌花が教えてくれた。 どうやら彼はいままで何回も転校を繰り返していて人との関わりが希薄らしい。本人も転校に慣れているようで必要事項を聞いた後は1人で行動することが多かった。 そんなクールな彼にクラスメイトも必要以上に関わることはなかった。 …私を除いて。 初対面であんなことを言われたからか話しかけても警戒心いっぱいだった彼も、少しずつ、本当に少しずつだけど言葉を交わしてくれるようになった。 これも、父を仕留めた母の恋愛の極意や今まで恋愛の相談を受けてきた萌花を筆頭にクラスメイト達が色んな極意を教えてくれたからだ。 しつこくしすぎは減点。だけど、寂しそうな彼には毎日想いを伝えるべし。 「にしても…手強いわねぇ。尋くん。もう4ヶ月も羽衣の全力アピールを受けているのに全く靡かないなんて。まだ全然脈なしなの?」 「うん…。ぜーんぜん脈なし…。」 この4ヶ月で顔以外は白く染まった私の体とは打って変わって尋くんの体はずーっと真っ白のままだった。 さすがに落ち込む。 「そんなことないって~って言いたいところだけど、恋愛のキューピッド羽衣様が言うんだもんねぇ。」 「何その二つ名。うう…恋愛って大変なんだねぇ。今まで相談にばっさばっさ言ってたけどちょっと優しさを混ぜるね。」 「お、いよいよ大天使さまっぽくなるね。」 「もー。ちゃかさないで…。」 「ごめんごめん。…ま、初恋は実らないっていうしね。もし砕けても私が次を紹介してあげる。」 「もー。萌花の引き寄せる男の人はダメ男ばっか!」 「あ、そうだった!」 クスクス笑いあう。 脈なしの恋。相手に響いている様子は全くないけれど。 でも、まだ可能性はある。誰かの色に染まったときがこの恋の諦める時だ。 「あ、体育の補習にいかなきゃだった。」 「行ってらっしゃーい。」 時間ギリギリになり焦って体育館の更衣室に行く。 いつもと同じ様にドアを開けるとそこには…着替え中の尋くんがいた。 そういや、女子更衣室って放課後は部活の更衣室として使われてるんだっけ…。 可愛く悲鳴を上げてドアを閉めるべきだが、私は眼に飛び込ん出来た光景にただただ彼の裸の上半身をガン見する。 「おい!いつまで見てんだよ!」 尋くんの咎める声にも応えず、ただただ自分の体温が上がっていく。 「おい!」 「染まってる…。」 「は?」 「なーんだ、私色に染まってんじゃーん!!」 「はぁ!?」 いつもは服で隠れて見えないところ。Tシャツで隠れるところがピンクに染まっていた。 普通の人はまさか感情が色として表に出ているなんて考えない。 だから、大体が目につく首から染まっていく。 でも、尋くんは私への想いを誰にも見えないところで染め上げていたのだ。 なんて天邪鬼。 なんて不器用。 でも、彼が染めた私の色にどうしようもなく嬉しくなる。 ニヤつく顔を抑えられずにニタニタしてると尋くんが少し引いた顔をした。 「尋くん!今日も好きだよ!そんな天邪鬼な所も好き!絶対に頭の天辺から足の爪の先まで私色に染めて見せるからね!!」 「何言ってんだよ。馬鹿じゃねーの。」 尋くんは口ではそういうものの1mm広がったピンク色に笑みが抑えられない。 「失礼しました~。」 気分が上がる。気合も入る。 鼻唄を歌いながら入った女子のみの更衣室の鏡に映る頭の天辺から足の爪の先まで真っ白な私を見てさらに歌を口ずさむのだった。
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