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「この空間は......?」
近くにあった壁に手を触れると、サラリとした感触が伝わってくる。先程までの土で作られていたものとは違い、此方の空間は石で作られているようだ。此処へ来る前に麓の町の依頼人から聞いていた通り、この洞窟は人工物らしい。全く同じ形に加工された石が、所狭しと壁や床、天井に並んでいる。彼からの話を信じるとするならば、この場所こそがこの洞窟の最深部...つまり、問題となった魔獣のいる場所だ。
「にしても、思いの外広いな」
薄暗い空間の奥に目を凝らしてみるが、其処にはただ闇が広がっているだけだ。しかし、確かに此処には何かがいる。姿は見えないため、例の魔獣かどうかはわからないが、先程から背中に殺気を感じる。
「グルルルル...」
「チッ...!」
少年が振り返ると、其処には少年の背丈の二倍ほどもある魔獣がいた。咄嗟に少年はその魔獣から距離を取るため後退し、腰にある剣の柄へと手をかける。しかし、まだ剣は抜かない。
「なぁ、お前。其処にある町の奴らから聞いたんだけどよ、この洞窟に入った人間に怪我を負わせたって本当か?」
「.........」
「なんだよ。俺とは会話したくないってか?」
話しかけてみても返答は得られなかった。目の前の魔獣はだんまりを決め込んでいるのか、ただ人の言葉すらも話せない程に獣へと堕ちてしまったのか、何も言わずに此方を見つめているだけだった。
「はあ、わかったよ。じゃあ___ 」
「なぜだ。なぜ、ケンをぬかない」
「いやお前喋れるんかいっ!なら初めっから俺と会話しろよ」
思わず口から出たツッコミに対して、目の前の魔獣は鼻を鳴らすことで答える。
(危ねえな。もうちょっとで剣抜いちまうとこだった)
剣の柄から右手を離し、空中でヒラヒラと振ってみせる。その際、自分より大きな体躯の魔獣が首を傾げる、という何とも可愛らしい仕草がやけに頭に残った。
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