35人が本棚に入れています
本棚に追加
「ひぃっ」
タダシは驚き、直ぐさまそれを地面に投げ捨てた。
偽物か?
悪戯にしても悪趣味すぎる。
いつもだったら交番に通報するところだが、もう一度中身を確認する勇気もなく、その場を立ち去った。
頭痛と吐き気が止まらない。
耐えきれずに公園の仄暗いトイレで嘔吐した。
吐瀉物が水流の渦に飲まれていくのを呆然と眺めながら、タダシは息を整え頭を抱えた。
なんだったんだ。さっきのは。
老人と、ホルマリンにでも漬けたような、青白く変色した指。
忘れようと自分に言い聞かせ、力ない足取りでどうにかマンションに帰宅した。
「あなた、お帰りなさい」
妻の顔を見て、やっと安堵したタダシ。
しかし彼女が差し出した白い封筒を見て、再び表情が固まる。
「あなた宛てに手紙が届いてたわよ。差出人が書いてないけど……」
タダシは嫌な予感がしてならなかった。
しかし何の心当たりもないし、後ろめたいこともない。
「……なんだろう」
敢えて妻の前でそれを確かめることにした。
一人で確認するのが恐ろしかったというのもある。
ペーパーナイフで封を切り、恐る恐る中身を確かめる。
気味の悪さに声も出なかった。
中からは、30cmほどの黒い髪の毛数十本と、剥がれた爪のようなものが三枚出てきた。
そして、白い便箋に一言。
____「忘れものですよ」
「何が入ってたの?」
不安そうに尋ねる妻に、タダシは我に返り苦笑した。
「ゴミだよ。悪戯かな。この前、職場でたちの悪いクレーマーに当たっちゃって」
「大変ね。気の毒に」
妻はタダシの人柄をよくわかっていたので、彼の言動を疑うことはなかった。
「トイレに行ってくるよ」
彼は自宅のトイレでも嘔吐した。
おかしい。さっきから吐き気と頭痛が止まらない。
風邪にでもかかったか。
それとも。
タダシはいつになく腹立たしさを覚え、封の中身を全てトイレに流した。

最初のコメントを投稿しよう!