忘れもの

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「ひぃっ」  タダシは驚き、直ぐさまそれを地面に投げ捨てた。  偽物か?  悪戯にしても悪趣味すぎる。  いつもだったら交番に通報するところだが、もう一度中身を確認する勇気もなく、その場を立ち去った。  頭痛と吐き気が止まらない。  耐えきれずに公園の仄暗いトイレで嘔吐した。  吐瀉物が水流の渦に飲まれていくのを呆然と眺めながら、タダシは息を整え頭を抱えた。  なんだったんだ。さっきのは。  老人と、ホルマリンにでも漬けたような、青白く変色した指。  忘れようと自分に言い聞かせ、力ない足取りでどうにかマンションに帰宅した。 「あなた、お帰りなさい」  妻の顔を見て、やっと安堵したタダシ。  しかし彼女が差し出した白い封筒を見て、再び表情が固まる。 「あなた宛てに手紙が届いてたわよ。差出人が書いてないけど……」   タダシは嫌な予感がしてならなかった。  しかし何の心当たりもないし、後ろめたいこともない。 「……なんだろう」  敢えて妻の前でそれを確かめることにした。  一人で確認するのが恐ろしかったというのもある。  ペーパーナイフで封を切り、恐る恐る中身を確かめる。  気味の悪さに声も出なかった。  中からは、30cmほどの黒い髪の毛数十本と、剥がれた爪のようなものが三枚出てきた。  そして、白い便箋に一言。 ____「忘れものですよ」 「何が入ってたの?」  不安そうに尋ねる妻に、タダシは我に返り苦笑した。 「ゴミだよ。悪戯かな。この前、職場でたちの悪いクレーマーに当たっちゃって」 「大変ね。気の毒に」  妻はタダシの人柄をよくわかっていたので、彼の言動を疑うことはなかった。 「トイレに行ってくるよ」  彼は自宅のトイレでも嘔吐した。  おかしい。さっきから吐き気と頭痛が止まらない。  風邪にでもかかったか。  それとも。  タダシはいつになく腹立たしさを覚え、封の中身を全てトイレに流した。

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