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少年は歩いていた。
抜けるような青空の下を一人で歩いていた。ふぅと息を吐き、頭から被っていた布をめくり少年は顔を覗かせた。
まだあどけなさの残る黒髪の少年・ヒイロは空を見上げた。雲は西へとゆっくりと流れていた。
そして、大きな荷物を背負いなおし、腰に差した長い棒状のもののバランスを直すとヒイロもまたゆっくりと歩き始めた。
ヒイロが歩く場所は、道とは呼びにくい。濃い緑の森に囲まれたその場所は人が切り開いた形跡はなく、大きな岩もあちらこちらに見えていた。
「ちょっと、そこの貴方」
ふいに聞こえた声にヒイロは歩みを止めた。声のする方へと顔だけを動かすと、やや小高い場所に立つ人の姿が見えた。声と外套で身体を包んでいるが華奢な線で女性だとヒイロにはわかった。
「あの」
ヒイロが声をかけようとすると、外套の女は軽く地面を蹴り、小高いその場所からヒイロのもとへと降りた。外套がふわりと舞い、落ち着く。
フードで隠された顔から薄い紫の瞳が見えた。
「どこへ向かってるの? この先は――」
「この先に何があるかを見るために、旅をしているんだ」
女の言葉を遮るようにヒイロは言った。
「この先に……向かってるというの? 貴方わかってる? この先は」
「地図に書かれていない場所だっていうんだろう?」
自信ありげな顔でヒイロは言った。あまりの堂々さに女はため息をついた。
「そうよ。地図を見ているならわかるでしょう? この先は、地図が灰色に染まる場所なのよ?」
女・アリスは肩を落としてからそう告げた。
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