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世界は「節目」を迎えていた。
限られた大地の中で、日々人口は増えていった。自分の生き残る場所を探すため、人は平和を捨てて、人は争いを始めた。
荒廃しはじめた時代の中で、ヒイロは外の世界に目を向けた。
「地図が灰色に染まる場所だってことは知っているさ」
ヒイロの言葉にアリスはため息をついた。
「呆れた。わかっていて進んでいるなんて」
「たしかにどんな地図を探しても、この先は灰色になってるんだよな」
背中に背負っていた大きな荷物を降ろした。ヒイロは布袋から一枚の紙を取り出し、丸まっていたそれをくるくると転がして開く。
それは地図だった。中央に位置する緑と砂漠を思わす色味の大地にいくつかの地名が書かれている。そして、その周囲は灰色に染められていた。地形もわからなければ、地名も書かれていない。
「そうね。灰色の大地に進めば命を落とす、悪魔に喰われる。そんなことも教えられずに貴方は育ったの?」
「小さい頃から数えきれないほど言われてきたさ。灰色の大地に進めば――、って。でもさ」
「でも?」
「誰も具体的なことは知らないんだ。どうやって命を落とすのか、どんな悪魔がいるのか、誰も知らない。みんなは伝説に怯えてるんだ」
「……貴方は怯えないの?」
ヒイロは頷く。
「むしろ、この先に何があるのか、この目で見てみたい。もしこの先がイイ場所だったら」
「なに?」
「みんなでこっちに移住する。オレの国は人が増えすぎて、もう住む場所を争うような日々なんだ」
血で血を争う戦いの日々にヒイロは辟易としていた。もう地表を覆っていた緑は減少し、争いにより作物の育つことができなくなった大地は砂と岩に変わった。
「このままじゃ人は滅んでしまう。もっとでっかい世界に目を向ける時代が来たんだ。この地図で灰色に染まる場所にオレは希望を見出したいんだ」
「貴方一人? 仲間や家族は?」
「……みんな反対した。悪魔に喰われて命を落とすと」
「そう考えるのが普通ね」
アリスは大きなため息をつく。
「貴方は、なぜ灰色に染まる場所に希望を見出せるの?」
ヒイロは右手の人差し指で西の上空を指さした。アリスはその方向を目で追ったが、そこには何もなかった。青い空が見えるだけだった。
「地図では灰色に染まっているけどさ」
「けど?」
「地図は続いていないだけで、空は続いているだろう? じゃあその先にも何かあるはずさ」
何の疑いも持っていないであろう自信に満ちた瞳でヒイロは言った。
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