学校では教えてくれないこと

5/8
前へ
/74ページ
次へ
草薙は息を呑んで両手で口をふさぐ。 まだほんの先しかおさまっていないところで、止める。こうして見ると、ただの固い肉の棒。 「だ…大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから…」 ほんとにいいの? だがもう聞かない。だめだと言われたとしても、もう止められないから。 「…入れる」 挿し込むなんてなまやさしいもんじゃなく、体の重みごと沈めていく。深く。 空調がよく効いているのは肌の表面でよくわかるのに、内側がじりじりする。 「…あつい」 は、と息を吐く。 頭の中をぐちゃぐちゃにかき回されている感覚。 いるのは俺の方なのに。 草薙の左脚の膝の関節を、持ち上げて胸の方に倒す。もっと深くまで、ぴったりと隙間なく俺で埋めたいという、おそらくは衝動。 「待って、」 強引だったかもしれない。 「…もう待てない」 考えてしたことじゃなかった。 ひと息に腰を引いて、それから、呼吸するまも与えず一気に貫く。 「や…っ」 乱暴者だとこの男に言われたことがあった。乱暴? そうかもしれない。 こんなに嫌がっているのに。何度も。 「やだ…っ、だめ…だって、ば!」 が外れかけた声を出す。それを無理やりに、噛み殺そうとしている。 言葉にならない、泣いているような、俺の下卑た欲望をかき立てる声。 「先生…ここ、いい?」 奥の、上側。たぶん、指では届きそうで届かないところ。 わざと触れるように動くと、こらえきれないように声をこぼした。体温が上がって、反応して()っている。細い体の真ん中。 「…いいんだ?」 するりとてのひらでそれを包む。体ほどには、熱くない。 「…生徒に…こんなの見せられない…っ」 顔を横にそむけ、くしゃくしゃになったシーツをつかんで声を抑えようと、口元に押し当てている。 まぶたを固く閉じている。白い、白過ぎる肌はしっとりと汗ばみながら浅い息遣いで上下している。だくだくと汗をかく性質ではないらしい。舌を這わせればわずかに塩辛い。 こんなの、煽るだけだ。 華奢な手首をつかむと、つられて顔もこちらを向く。 青い血管が透けて見える手首の内側に、衝動的に歯を立てそうになる。 代わりに、唇で強く吸う。体がびくりと縮こまる。黒い瞳が揺らぐ。 そんな目で俺を見ないで。 熱を逃すように吐息をもらして、それが手首の薄い皮膚にかかると、草薙は目を細めた。ゆっくりと。まぶしそうに。 「…今日は、全部見せて」 今日だけは。 ぐちょぐちょで、熱い。どこもかしこも。 こんなこと絶対に学校では教えてくれない。 これは最後のキスだ。 解放、してあげないと。教師としての義務から、先生を。 もうこれ以上望んではいけないのだ。 思いとは裏腹に、声が出せないくらい、息ができないくらい奪う。 (かげ)り始めた室内には、息遣いと、粘膜の擦れ合う音、ベッドの軋む音。草薙と俺の周囲だけほのかに上昇する温度。汗がぱたりとシーツに落ちる。 背中にしがみつきながら、か細い声が俺の耳元に訴える。 「も…、だめっ…」 どくん、と心臓じゃないどこかが脈を打って、出るとかイクとか口に出す余裕なんかなかった。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

118人が本棚に入れています
本棚に追加