102人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
p.s. 再び春
鎖骨をたどって、喉仏。
顎の裏側の柔らかいところに唇で触れると、いつも堪えられなくなったような吐息を漏らす。
電話がかかってきたのだった。
もう連休はとうに終わっていて、5月とは言え汗ばむ日が続いていた。
…大学はどう?
…まあまあ。
それだけではあまりにも、だと感じて、やることいっぱいあって面白いよ、と付け加えた。
まだ、自分で組み立てた時間割についていくので精一杯だった。あちらの講義室へ、こちらの大講堂へと移動する。高校の頃とは、何もかも勝手が違う。
講義の名称は興味深いものも多かった。面白そうな予感がする、と言う方が今はまだ正しいのかもしれない。
…良かった。
お前の返事も一言かい、とお笑い芸人ばりにツッコミたくなる。口には出さないが。
何だろう、この感じ。
あいたい、と言いそうになるのを呑み込んだ。
子どもじみた拙い口調、慎重さ、それにど緊張が、おそらくはお互いを縛っている。
そのとき甲高い声が真横から聞こえて、俺は、うわっと言って体を引く。
弟の、納豆(しかも刻んだやつ)まみれの手指。
おにいちゃんはいまおでんわしてるからねーと父親が追いかけて来て、弟を羽交い締めにする。
今、家?
うん、家。
ソファの上に避難しながら、おうむ返しで答える。
やっぱり本がある場所の話をする。
大学の図書館の建物はガラス張りで、尖った三角形をしていること。最寄り駅近くに、いまどきめずらしい個人経営の書店があるが、やや入りづらい雰囲気であること。
歴史のある大学だから、きっと図書館の蔵書には君好みの古い本もたくさんあるだろうねと草薙は言った。
サークルなんかは?
たくさんありすぎてよくわかんない。とりあえず今年中に教習所に通う。親も、車乗らなくても免許はあった方がいいって言ってる。
そうだね。1、2年生のうちにね。
…今何してんの。
家で、宿題の作文をみてる。「高校入学にあたって」。
…ふうん。
今年、初めてクラス担任をまかされたそうだ。1年3組。
だいぶ忙しいらしい。俺の方も、説明会やら新入生ガイダンスやら、細切れの予定がたくさんあった。
だから卒業式以来会っていない。
最初のコメントを投稿しよう!