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スマホとスマホの間をつなぐ、帯みたいな沈黙。
俺が妙なことを言ったから、だろうか。
だが草薙も俺も通話を切ろうとはしない、おそらく互いの物音に耳をすませている。
…明日、何時から講義?
少しだけ気まずさを引きずった調子。もしかしたら、単に話題が見つからなかったのかもしれない。
一限。九時十分から。
じゃ、もう寝ないとね。
まだ八時前だけど…。
…大学生に、なったんだねえ。
なったけど。何も変わってない。背ももう、たぶんあんまり伸びてない。
そう答えたにもかかわらず、なぜだか草薙は満足げだ。
誕生日にこの男は、思いがけず葉書を送ってきた。考えてみれば、しばらく見ることのなかった草薙の書き文字。十九歳おめでとうとだけ書いてあった。
おととし僕が副担任に就いたときは、十七歳だったのに。
…二年経ったら、そりゃ、二つ年取るだろ。
そうだねと言って、おかしそうにまた笑う。何をそんなしみじみとしたり、おかしがったりする必要があるのだか。
引っ越して本、増えた? 減らした?
…減ってはないんじゃない?
こっそりと白状するようにつぶやく。
草薙の持っている本は全部読むと、勝手に決めている。
俺みたいな奴が先生のクラスにいなければいいけど。
…どうして?
だって大変じゃん。
小柄な僕が言うのも何だけれど、みんなちっちゃくてかわいいよ、体の大きさって意味だけじゃなくてね。
ほざいている、博愛主義者。みんな。
どうせ俺は無駄にでかいよ。
また、笑う。
何かの拍子にそいつが読書好きになるかもしれないし、紅い唇や気弱な笑顔に気付いてしまうかもしれない。
とは言わない、もちろん。
週末の、時間や場所を改めて決めた。
また会える。
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