ソーダ姫とグミ騎士(ナイト)

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 メロンソーダは緑色。  レモンスカッシュは薄黄色。  そして喫茶メロウの「レインボーソーダ」は七色に。 「グミちゃん見てみて〜! すご〜い!」 「うんうん、すごいすごい」  私はもう見慣れたが、周りの客はザワついた。  女子高生の髪が、飲んでるソーダと同じ色に染まるんだから、騒ぐのも当然だとは思うが。  姫子は特異体質だ。飲んだソーダの色に、髪の色が変わる。  メロンソーダは緑色に。  レモンスカッシュは薄黄色に。  そして喫茶メロウの「レインボーソーダ」は七色に。  その上、本人は色つきサイダー大好物ときている。おかげで土日祝日の彼女の髪は、いつもカラフルだ。  一度、聞いたことがある。 「イヤじゃないの? ソーダ飲んだくらいで髪の色が変わって」  彼女に良からぬ言葉をかける輩もいる。私がいる時は言い返しもするが、彼女はいつもどこ吹く風だ。 「なんで? 髪がソーダ色になるんだよ、すごくない? せっかくこうなんだから、楽しんだ方が楽しいかなって」 「バカにする奴らもいるじゃん」 「うん、あの人たちにはコレ楽しくないことなんだなって」 「それだけ?」 「うん」  その話は、本当にそれで終わった。 「グミちゃん…新発売だよ」  コンビニで姫子が指をさした棚には「スカッと夏のブルー」というソーダのペットボトルが並んでいる。 「うん、土曜日にね」 「でも」 「ガマンだよ、真っ青な髪で学校行く気?」 「きゃ〜〜〜‼︎ ステキそう青い髪‼︎」 「ガマンだってば!」  高校は、姫子の癖っ毛は大目に見ても、ソーダ色の髪を大目に見てはくれなかった。姫子は、学校には黒髪で来るように厳しく指導を受けた。  しかも、コーラ色の髪では人によっては茶髪判定するのだ。人によって判断が変わるなんて、と私は反論したが、取り合ってもらえなかった。  試行錯誤の結果、月曜の朝に濃くて苦いコーヒーをソーダで割って、姫子は何とか教師の目を凌いでいる。 「無色のサイダーも美味しい。うん、おいしい」  コンビニで買ったボトルを片手に、姫子が呟く。  無色のサイダーなら髪の色も変わらない。けど姫子にとっては、どれだけ美味しくても、色のないサイダーは少しつまらないらしい。フワフワの癖っ毛もしぼんでいる。 「……しょうがないなぁ」  私は、いま買ったばかりのグミの袋を開けた。 「ほら」  グミをサイダーのボトルに入れる。真っ赤なサクランボ味のグミが、炭酸の泡をまとってキラキラした。飴では溶けて色がついてしまうが、コレなら溶けずに彩りになるだろう。 「わあ! ありがとうグミちゃん!」 「どういたしまして」  私の本名は久美だ。でもまたコレで一層「グミ」と呼ばれるんだろうな。  けど、そのあだ名を嫌だと思ったことはなかった。  姫子はカワイイし、スラっとした体型で見た目もいい。  私は太めだし背も低い。顔も可愛くない。親にまで顔や体形をイジられる。嫌いだった。  けど。 『せっかくこうなんだから、楽しんだ方が楽しいかなって』  だから私は、今日も彼女と過ごす時間を大切にする。  姫子といる時は、私も自分を楽しむ心に染まれる気がするから。
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