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森の中を飛び回っているのも退屈だ。人間にイタズラして遊ぼうにも、最近は森に入って来る人間も少ない。
昔は冒険者だとか旅人だとかが好んで入って来て魔物と戦っていたってのに、めっきり減っちまったもんだ。そんでもたまに物好きが入って来るから、それを眺めることが、あたいは好きだ。特に少し不利になっている人間が好みだ。あたいの姿は四つ葉のクローバーを頭に乗せない限りは見えないから、魔物の足元を掬って隙を与えることも簡単にできるし、魔物が負けそうになってたら人間の邪魔だって簡単にできる。あたいにゃどっちが勝っても良いから、暇つぶしにバトルが見れたら良かったんだ。
今夜は満月だから、人狼が活発になる。
人狼ってのは鼻が良いから、あたいの姿が見えなくても追いかけてくる時があるし、テキトーに攻撃してくるから嫌なんだ。
あたいはピクシーだ。魔術も使えるし、反撃もできる。だけど、人狼にゃ敵わない。まずサイズが不利だ。あたいは小さい。人間のサイズになることもできっけど、魔力の消費が激しくなるし、疲れるから滅多にやりたくない。サイズを大きくしたところで魔力が尽きちまったら攻撃も上手くできなくなっから、小さいままコソコソ攻撃したほうが良い。相手に見えないならどうにでもなるはずだ。ま、人狼と戦うのは不利だけど。
あたいが人狼から逃げていたら、灯りが見えた。薬の匂いがする。魔法薬を持ってるなら、人狼にも勝てるかもしれない。そもそも、森に入ってきてるんだから討伐に来た人間のはずだ。
薬の強い匂いがするから、人狼はあたいではなくてそっちに走っていく。どういうやつが来ているのか気になるから、あたいは人狼より先に匂いに向かって飛ぶ。
「やべぇ。迷った……」
ランタンを持って辺りをキョロキョロ見回している聖職者がいた。
どうやら迷ってるだけで討伐に来たんじゃないようだ。大丈夫かねぇ、このままだと人狼が走ってくるけんど……。仕方ない。あたいがサポートしてやっかね!
「そこ、何か飛んでるな?」
あたいの姿が見える? と思ったけど、話してる方向が違う。気配は察知してるってことか。そんなら、人狼が走ってきてるのもわかって……なさそうだ。あたいは素早く木の棒を持ち上げて人狼を転ばせた。音に振り向いた聖職者は驚いた顔をしている。
「人狼か! あっちゃあ、面倒なのに遭っちまった……」
そう言いつつ、聖職者は腰のポーチを開いていた。ポンッとガラス瓶の蓋を開いて、人狼に投げつけたかと思えば、中の液体がかかった人狼は地面を転げまわる。煙が出てるくらいだ、何の魔法薬だかあたいにもわからない。しばらくして、人狼は動かなくなって、人の姿になっていた。
「いやぁ、驚いた。ありがとな。助けてくれたんだろ?」
そっちにあたいはいないんだけど。
仕方ないから姿を見せてやろうかね。聖職者の肩に乗っかって、四つ葉のクローバーを頭に乗っける。
「あたいはこっちだよ。聖職者さん」
「うわっ、びっくりした! あ、四つ葉のクローバーを乗っけてるってことは、ピクシーなんだな?」
「そうさ。あたいは、はる。仲間には『おはるさん』って呼ばれてるよ」
「名前教えてくれるんだな? おれは夏樹ってんだ。孤児院でエクソシストやってるよ」
「孤児院でエクソシストかい? 普通の聖職者じゃないってのはわかってたけど、ヘンテコだね」
「よく言われるよ。おれは医療系のサポートをすることが多いから。孤児院の責任者の代理って感じだな。で、おはるさん。さっきはありがとな。ついでに悪いんだけど、街へ出る道わかっか?」
「わかるさ。でも、タダで教えるほど優しいおはるさんじゃないよ」
「そんじゃあ、何すれば良い?」
「あんたといたら面白そうだから、あたいをつれて行ってくんな」
「へ? おれと? それぐらいなら良いけど、森にいなくて良いのか?」
「最近は森だと刺激が少なくってね。あたいは人と魔物が戦うのを見るのが好きなのさ。エクソシストなら、討伐もよくやるだろ?」
「そっか。そんじゃ、これからよろしくな、おはるさん」
こうして、あたいはエクソシストの夏樹と共に過ごすことになった。
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