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「そんじゃ道案内してあげっから、あたいを肩に乗せてくんな」 「飛ぶの大変だもんな」 「まぁね。わかってるじゃないか! 見る目があるよあんた!」 「アイタタ、叩かないでくれぇ」  あたいは、夏樹の肩に乗せてもらって、街への道案内をする。  もしかしたら更に迷わせるかもしれないってのに、あたいをよく信頼してくれるもんだ。 「ねぇあんた、あたいがきちんと道案内するってよく信じられるね?」 「え? おれ、騙されてんのか?」 「いいや。きちんと街に向かってるさね。だけど、初めて会ったピクシーをよく信頼できるもんだと思ってね。あたいがあんたを魔物の巣に案内するかもしれなかったろ?」 「おー、そっか。全く考えてなかったや。おはるさんなら大丈夫って思ってた」 「なんだいそりゃあ」  まあ、頼られてるなら悪い気はしないね。  中には妖精種を捕まえて売ろうとする人間もいるってのに、この人は信用できそうだ。エクソシストってのも本当のようだし。  木の向こうに灯りが見えてきた。 「教会だ! おれがよく教会に行きたいってわかったな?」 「それはたまたまさね」 「お陰で助かったよ! ありがとな!」 「どういたしまして」  お礼を言われたらくすぐったくなっちまうよ。  夏樹はあたいを肩に乗せたまま教会の大扉を開く。  あたいは妖精種だから悪魔族じゃないけんど、ピクシーをつれて入るのは大丈夫なのかねぇ。一応姿を隠しておこうか。あたいは頭から四つ葉のクローバーを外す。  教会の奥に進んだところで乾いた音が鳴り、あたいの頬を何かが掠っていった。 「ひっ! 何でいきなり撃つんだよ!」 「エクソシストのくせに何かに憑かれてるでしょう。……手応えがないから、外したか」 「怖いことすんな! あと、憑かれてねぇから! おはるさんは良いピクシーだ! ってあれ? 何処行った?」 「あたいなら、ここにいるさ……」  あたいは四つ葉のクローバーを頭に乗せる。  目の前には銃を持った神父がいる。物騒な神父だね。見えていないのに、あたいの頬を掠るほどの腕があるとは怖いよ。普通の人間は近距離でも上手く撃てないってのに、傭兵でもしてたんかねぇ。  あたいの姿を確認しに神父が近付いて来る。目が血のように赤い。人間と異なる血が流れていそうだ。肌の色も褐色だから、ダークエルフでも血縁にいそうだね。 「ピクシーを飼い始めたんですか?」 「あたいは飼われてないよ!」 「……こんなに攻撃的なピクシーは初めて見ました」  あたいを虫のように掴もうとするから、爪をガッて持ち上げてやった。こうやりゃ、爪を剥がれたら痛いし嫌だからすぐ手が離れる。 「久しぶりに森を歩いたら迷っちまってさ。おはるさんに助けてもらったんだ。あ、あと、人狼退治もしといたよ」 「ありがとうございます。周期的にそろそろ出ると思っていたんですよ」  夏樹と神父は会話している。あたいは蚊帳の外だ。  夏樹はこの神父に用があって森を抜けてきたわけだから、色々話さなきゃいけないこともあるんだろうけど、あたいは暇だ。姿を消して街でも見に行こうかとも思ったけんど、陽も沈んでいるし、開いてる店も少なそうだからやめた。勝手に離れたら面倒なことになりそうだし。  そういえば、神父の名前を聞いてなかった。 「ねえあんた、名前は?」 「ピクシーなら教えても大丈夫ですか?」 「おう。大丈夫だ。おはるさんは悪用するような子じゃねぇよ」 「それなら……、私は小焼(こやけ)。この街の教会の責任者です。司祭ってやつですね。あと、夏樹のいる孤児院は私が副業で経営しています」 「へえ。小焼兄さんはエクソシストじゃないのかい? 腕が立つようだけど」 「私には悪魔憑きと精神病を見分けられませんよ。殴れば治るなら良いですが」 「はいはい。司祭様が暴力で解決すんなよ」  なかなかの暴論に驚いちまったや。  あたいよりも手が出るのが早そうなのに司祭をやってるって、すごい兄さんだ。射撃能力も高いし、腕っぷしも強そうだ。聖書の勉強より傭兵のほうが向いてそうさ。 「私は今から聖務日課があるので、夏樹は……いや、やっぱり良い」 「何だ?」 「夕飯の支度を頼もうかと思ったのですが……、ピクシーがいるなら大丈夫か?」 「夕飯の支度だな! 任せてくれよ! おはるさんもいるし!」  うちの人は元気いっぱいだけど、小焼兄さんは納得していない顔をしている。  あたいがいたらなんとかなるのかねぇ。
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