1/1
前へ
/13ページ
次へ

夏の終わり。 涼しげな風は微かに秋の匂いを含んでいて、そのどこか懐かしさを感じさせる匂いに、少年アンディは鼻をひくつかせた。 夏から秋に変わるこの時季の空気は好きだ。 アンディは裏庭の端に植えられた木の根元に座り、澄み切った空に浮かぶ雲をぼんやりと眺める。 孤児院の裏庭はとても静かだ。広い丘の上だから空気も良いし、ここに居ると気分が落ち着く。 暇つぶしに持ってきた本を胸に抱いて、息を吐いた。古びた本は、撫でるとざらついた感触を指に伝えてくる。 秋の匂いと心地よい空気に混ざって、どこからか鳥の鳴き声が届く。 ざぁっ……と、風が吹いた。 アンディの癖のない茶色の髪が、風の流れに乗って揺れる。 今日は風が強い。本を持ってきたけれど、これじゃあ風に頁をめくられて、落ち着いて読めないかもしれない。 まぁ、これ以外に暇を潰せるようなものもないから、仕方ないけど……。 アンディは木の幹に背を預けると、胸に抱いた本を開く。 直後に強く吹いた風が勝手にぱらぱらと頁をめくり、アンディはちょっと不機嫌そうに、眉をしかめた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加